平成4年頃、30代半ばで川柳の面白さに出合った。すぐ地元吟社の会員となり、毎月の句会にもなるべく出席するようにしていた。
いつも30人くらいが集まっていただろうか。みんな私よりかなり年配の人たちだった。私の両親はどちらも昭和3年生まれだったが、句会への出席者・投句者の中には大正生まれの方がかなりいた。男性会員は大東亜戦争に従軍した者が多く、あの凄惨を極めたインパール作戦の生き残りだったとか、長崎の原爆投下のわずか数日前に自分の所属する部隊が被爆地近くに駐屯していたとか、そんな体験をした仲間たちと川柳に興じていた。女性会員の中には戦争未亡人の方もいた。
自分の親よりも年上の世代に、その頃の私は、(息子のように?)結構可愛がってもらっていた。若いのに頑張っているなあと感心し、いろいろと目にかけてくれる長老もいた。趣味の世界には年齢も経歴も関係ない。みんな対等になって楽しめればそれだけでいいのである。句会での抜けた抜けないの一喜一憂はいつもスリリングに感じ、毎月その日がやって来るのを楽しみに待っていた。
句会の雰囲気に馴染んでくると、披講前の休憩時間などに雑談や世間話をするようになる。いろいろな噂や評判が私の耳に入って来た。誰と誰がお互いをライバル視していて仲が良くないらしいとか。女性の中には相性が悪いのか、いつも席を離して座り、なるべくお互いが近寄らないようにしている者がいるとか。そんな人間関係が少しずつ見えてきた。趣味の世界にも序列を気にする者がいれば、妬んだりやっかんだりする者もいるということが次第に判ってきた。しかし、そういう人間模様や相関図についての話題はいつも他人事として耳を傾け、あまり関わらないようにして会場を眺めていた。
当時の私の年齢からすれば、60歳以上なら、70歳でも80歳でもすべて同じような老人に見え、ものの考え方や感じ方に世代のギャップを感じていた。だから、端的に言って年寄の悪口にはそもそもあまり興味を持てなかったのである。カビが生えたような時代感覚の古い話しに今更ながらついて行く気にもならなかった。そして、柳壇ではまだ若造の私が陰口や噂話などの対象にされること、さらにとばっちりを受けるようなことはあるまいと高を括っていた。いつも傍観者だったのである。
それから20数年が経ち、私も60歳を迎え、仕事を辞めて川柳三昧の日々を送ることとなる。まず所属する吟社の柳誌の編集に関わり始め、それがきっかけで吟社の役員、大会や柳誌での選者、初心者への添削指導、他所の柳誌への寄稿、句集や入門書の上梓、企業の募集するテーマ川柳の審査員など、いろいろな経験を積むようになった。
一つの依頼が来ると、それが他所の吟社やメディアなどに知られて呼び水となり、別の依頼がまた来る。川柳に関する申し出なら原則として何でも断らないようにしているので、次第に私の名も知られてきたようだった。
それと並行して、県内柳壇のほとんど面識のない長老たちから私の言動が生意気だと誤解されていたようだった。ある時、若い癖に地元川柳団体の重鎮へきちんとした挨拶をまだしていない、重鎮に対して仁義を切らず全国的な川柳団体の役職に就いたなどと陰で言い回る輩がいることに気がついた。与太話が噂話として広まるとさらに尾鰭が付いて、全く会ったこともないような人にまでとんでもない勘違いをされてしまう始末である。親しくしている仲間に聞くと、どうもかなり嫉妬されていたようだった。
当初はそんなことに対してあまり気を留めることはなかった。かつて、親の年齢を超えた世代の仲違いや反目を冷ややかに眺めていたので、そういったことは相変わらず対岸の火事程度のものだという認識でやり過ごし、我関せずの立場を通していた。ところが、その後実害が次第に出始めてきた。
有りもしない出鱈目なことを言いふらし、それを真に受ける下種野郎がいるもので、数年前、その所為で毎年続けていた川柳コンクールの選者を引きずり下ろされたのである。川柳の普及のためなら一肌でも二肌でも脱ぐ覚悟でいたのに、出る杭は打たれるで僻まれる。いや打ちのめされてしまったのである。はっきり言って無念に感じた。
30代から50代まで、そんな見苦しい足の引っ張り合いみたいな言動は自分から遠い景色のものとして眺めてきた訳である。60歳を過ぎて川柳のために一生懸命頑張っていたら、とんでもない嫌がらせを受けてしまう。気がつけば、趣味の世界の醜い影の部分に自分も呑み込まれてた訳である。
喧嘩は対等な者同士がするものである。軽蔑したくなる輩を憎んでいても仕方がない。実害を被って本当に口惜しい思いをしたが、私のことを分かってくれている仲間もいるので、そういった方たちとの付き合いを大切にして、遠景が押し寄せて来ても極力交わらないよう改めて心がけている。
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