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 令和の年号が始まった6年前の2019年5月1日は、いい天気だったことを今でも記憶している。その日の新聞朝刊には、行きつけのスーパーの折り込みチラシが入っていた。特売のものはないかと、いつものように隅から隅まで眺め始めた。令和に改元され、新たな天皇の時代になったお祝いとして、先着100名だったか、紅白の饅頭を来店客に無料で配るという案内がいきなり目についた。ただし、お買い上げ金額2,000円以上の客が対象となっている。
 我が家は小まめにスーパーへ行くので、2,000円以上の買い物はあまりしない。これは無理だな、とすぐに諦めた。それから昼時になって、この話題を老母(当時91歳)に何気なく話してみると、「博史、それはめでたいことだ。すぐもらいに行け!」と素早い反応を示した。「今日の食料品の買い出しは2,000円にならないから駄目だよ」と、やんわり断ったが、どうも饅頭にしぶとく拘っている。
 それからしばらくして老母は漸く諦めたようだったが、なぜそこまで言い張ったのか考えてみた。振り返ってみると、昭和の頃、何かの大きな行事や身内の冠婚葬祭があるとよく饅頭をいただいた記憶がある。朧気な思い出ではあるが、今から60年以上前になる小学校の創立100周年記念の式典で紅白の饅頭をもらって家に帰ったような…、そんなうっすらとした記憶がある。
 子供の時分、親戚やご近所で葬式があると、葬式饅頭がよく振る舞われた。ネットで調べると「春日饅頭」というらしい。一般的な饅頭に比べてかなり大き目の小判型でこし餡がたっぷり入っている。白い薄皮の表面には模様が焼き付けられていて、それは柏や檜の葉っぱの型であるとネットでは説明されていた。実はこれが楽しみだった。とても1人で1個は食べきれない。母親に等分に分けてもらい家族で食べたものだった。
 結婚式では、引き出物で鯛菓子というのがあった。赤い鯛の形をした大きな落雁みたいなお菓子で、中にはやはりこし餡が入っている。子供の私にとっては、餡子が入っているものはすべて饅頭みたいなもので、親がもらってくると喜んだ。たまに餡子の入っていないものもあった。これにはがっかりした。落雁はあまり好きではなかったからである。口の中へ入れてもパサパサしていてただ甘いだけ。神社の御供物でよく父がいただいてきたが、あまり嬉しくはなかった。やはり饅頭みたく中に餡子が入っている楽しみがないと口に合わない。
 職場の現役時代、専門学校の事務室に配属されたことがある。小さな学校で、校内行事や式典などで何をやるにしても、いつもこぢんまりしたものだった。それでも卒業式の時に、お祝いとしてせめて紅白の饅頭ぐらいはご父兄(今で言うところの保護者)に受付で配ろうという話しが出てきた。お子さんがめでたく卒業し、晴れて社会人になる訳である。ささやかだが饅頭を差し上げる経費ぐらいは計上してもいいのではないかということだった。
 和菓子屋に当たってみると、予算内に収まる紅白の饅頭は作れない、とのこと。うーん、残念!と諦めかかったが、紅白のすあまなら何とか作れると代案を提示された。仕方なくすあまに変更して発注することになったが、些かがっかりした。やはり饅頭に拘った。大人になっても、餡子が入っていない和菓子はイマイチ印象がよくなかったのである。
 しかしこれも齢を重ねると好みも変化していくようで、いつの間にかパサパサした落雁も餡子のないすあまも、出されたら喜んで食べるようになった。ちなみに「すあま」は漢字で「寿甘」または「酢甘」と書く。
 十数年前、京都へ行った際にお土産店で、求肥(ぎゅうひ)をカステラの生地で巻いて若鮎の形にした和菓子を買ったことがある。てっきり中は餡子かと思ったら、白いすあまみたいなものだったので、こんなものがあるのかと驚いた。そもそも求肥というものを知らなかったのである。でも味わってみるとこれもなかなか美味しい。なお、すあまと求肥は親戚関係のようなものと、私の頭の中では認識されている。

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  1. くぼかわけんいち on 2024年5月30日 at 1:29 PM :

    葬式まんじゅう、私も楽しみでした。考えてみたらたいへん不謹慎な子どもだったと思います。誰かが亡くなるのを待つようで。
    それから、お土産にもらう温泉まんじゅうも大好きでした。
    宇都宮の和菓子店うさぎやで、チャットが発売されたときは、こんなに美味しいものがこの世にあるのかと感激したものです。
    今は美味しいものが山ほどあって、感激も薄れてきましたが、甘いものを食べると幸せに感じるのはなぜなんでしょう。

    • 三上 博史 on 2024年5月30日 at 8:25 PM :

       くぼかわさん、ありがとうございます。
       うさぎやのチャットも美味しいですよね。マスキンのどら焼きも懐かしい。
       8月のとちぶん夏季講演会でまたお会いしましょう。

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