もう40年以上前のことだが、私は大学を1年間だけ自主留年した。卒論だけを残して敢えて卒業猶予(大学5年生)のプロセスを選択したのである(ほんとはもっと留年したかったのだけれど…)。理由は世間並みに4年なんかで卒業したくなかった、ただそれだけのことである。
5年目の東京での生活費はほぼ自分で賄った。学費については、前期分の授業料等の納入はアルバイトの稼ぎが間に合わず親に頼ったが、後期分は自分で払った記憶がある。
留年した場合の授業料等について、私の在籍していた大学は、履修科目の単位数によってある程度減額算定されていたようで、私のように卒論の単位だけ残っている場合だとかなりお安くなっていた。これも極めて朧気な記憶だが…。
ところで、そういった留年した場合の授業料等の取り扱いについて、他の大学の場合も減額されていると、ずっと私は思い込んでいたが、実際は違っていた。
無事大学を5年かけて卒業し、(仕方なく)故郷へUターンして地元の私立医科大学の事務員として働き始めたが、医療系学部の教務事務を担当した時期にこんな経験をした。
専門科目の現場実習で躓いて留年する学生が毎年のようにいたが、そういった学生の留年時の授業料等は何と満額納入することになっていたのである。医療系の学費は、文系より高い理系学部の中でも決して低い方ではない。
病院などの施設で行われる実習で指導教員と折り合いが悪くなって、半年卒業延期あるいは1年留年などという学生が結構いた。そういったケースでは、5年目には学校へはほとんど来ない。たまに教員の面接指導を受けるだけである。しかし授業料等の方は、学校にほとんど通っていないというのに、半年分または1年分を満額納入しなければならない。そんな訳で1人暮らしをしている学生などは、時間的にも余裕が生まれるので学費や生活費を捻出するためのアルバイトに精を出すことが多かった。
これは自分の留年経験を踏まえて考えてみると、随分ひどい阿漕なやり方である。しかし、何かの機会に他大学の状況を調べてみると、国公私立を問わず授業料等の満額納入は大学運営の常識らしい。特に国立大学(正確には国立大学法人)の場合、文部科学省からもらえる運営費交付金の中に、留年生に対する算定は除外されている。つまり国立大学では留年生に係る経費は授業料の納入(実習費などの他の名目の納付金は無い)だけが頼りなので、留年生を抱えるというのはただでさえ採算が合わない。だから、授業料を割り引くような発想がさらさらない。
私立大学においては、納入しなければならないいわゆる学費というものは、授業料のほかに実習費、施設費などの区分がある。それぞれ年額何十万円、いやそれ以上の額である。これらの積算根拠というものはおそらくどこの大学でも厳密には計算していないだろう。学生からのトータルの納付金や補助金などの収入(これを帰属収入という)と大学または学部運営経費が上手くバランスできるようにするために、逆算して納付金総額を算定していて、その内訳である授業料、実習費、施設費などの区分毎の積算方法などは多分存在しない。強いて言えば、他大学の状況を調べ、その相場を踏まえて鉛筆を舐めながら数字を作り出したどんぶり勘定なのである。入試合格者は少しでも学費が安いところへ入学しようと流れるから、大学経営者は学費の総額だけを気にするのである。
つまり、留年して卒業に必要な単位数を現在何単位残して履修しているから、単位換算でこれだけの授業料を収めてください、などという発想をそもそもしないと言える。
今の世の中は消費者保護法に基づいて、消費者サイドに立ってその権利が保護されている。クーリングオフなどは典型的な制度である。学生アパートの家賃については、2年毎の契約更新時期に礼金を払う必要がなくなった。私立大学に合格して初年度の納付金を一括して支払っても、入学を辞退すれば、入学金以外の納付金は全額返金される。20年近く前からそういうことが定着しただろうか。いい世の中になったものである。
しかし留年中の取り扱いについて、大した授業を受けていないのに授業料等を満額納入しなければならないのは、今もって私には解せない。何処かの大学のクレーム好きな留年生がこの矛盾に気がついて消費者庁や消費者相談窓口へ相談に行ったり、あるいは民事訴訟を起こしたらどうなるだろう。個人的にはおもしろい展開になるのではないかと、傍観者の立場で密かに興味を持っている。留年生(特にお金のない)よガンバレ!
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