国民的人気作家・東野圭吾さんが亡くなり、改めてその作品を読み返している。『容疑者Xの献身』『白夜行』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』など、ジャンルを越えて多くの読者を魅了してきた理由を考えているうちに、良い川柳との共通点に気づいた。
第一は、難しいことを難しく書かない。
東野作品には科学、犯罪、家族、愛、社会問題など重いテーマが登場する。しかし文章は平明で、読者を置き去りにしない。川柳も同じである。難解な言葉を並べるより、誰にも分かる言葉で人生の深いところを突く一句の方が強い。
第二は、無駄がない。
東野作品は物語の展開が速く、一つ一つの描写や会話が後の展開につながっていく。十七音しかない川柳では、なおさら一字一句に役割が必要になる。説明し過ぎず、削れる言葉は削る。この「省略の力」は小説にも川柳にも通じる。
第三は、読み手の予想を裏切る。
ミステリーでは「あっ、そうだったのか」というどんでん返しが大きな魅力になる。川柳でいう「膝ポン」である。上五、中七から読者が想像した方向を、下五で鮮やかに転換する。良い川柳には、小さなミステリーのような構造がある。
第四は、人間を描く。
東野作品の魅力はトリックだけではない。愛情、嫉妬、孤独、親子、夫婦、老い、後悔など、人間の心が描かれているから読後に余韻が残る。川柳もまた、人間を詠む文芸でありその共通点は不変である。
第五は、読み手に考える余白を残す。
すべてを説明してしまえば作品はそこで終わる。語らない部分があるから、読み手の人生や経験が作品の中へ入り込む。「分かりやすい」「無駄がない」「意外性がある」「人間を描く」「余白を残す」。
東野圭吾作品の人気の秘密をこう整理すると、そのまま良い川柳を作るための五箇条にもなるように思う。
長編小説と十七音。長さはまったく違う文芸の世界だが、読者の心を動かすという一点では、案外同じ場所を目指しているのかもしれない。
【十七音の短文文芸の川柳もまた小さな物語なのである】
渡辺柳山
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