若い頃から軽度の偏頭痛に悩まされていた。まず閃輝暗点(せんきあんてん)の徴候が出現する。これは偏頭痛持ちの人しか分からない症状である。なかなか説明しづらいものであるが、簡単に言うと、痛みの前段階として何かを見ながら眼がちかちかする感じが出てくるのである。
この気配を偏頭痛の度に経験すると、この後に必ず頭が痛くなるぞということが確実に予測できるようになる。この時点で速やかに頭痛薬を服用すればぎりぎりセーフ。本格的な頭痛へと進むことは何とか阻止することができる。あるいは既に頭痛が起き始めてしまった段階なら、早目に横になって数十分でも目を瞑って睡眠を取れば、薬を呑まなくてもきちんと治る(これはあくまでも私の場合)。
頭痛が頻発していた40代の頃、私の症状は週末頭痛というものであることが自分なりに判った。これはインターネットのお蔭である。ある時、PC画面に向き合って「頭痛」関係の情報検索をしていると、自分の持病が週末的な状況になると発症してくるタイプのものであることを見つけたのである。
週末的な状況とは、何か負荷(ストレス)のかかる仕事などがあり、それが一段落して少しほっとした精神状態になる時のことである。この機序(絡繰り)が判ってきたら、そろそろ頭痛が来るかなあと、ある程度予知することができるようになる。予知通りに来てしまうと、やっぱり来たかと観念しながらも素直に納得する自分がいる。地震予知より正確である(笑)。
勤務中あるいは自宅にいる時のいずれかの場合がほとんどである。車の運転をしながら閃輝暗点が出て来ることは滅多にない。車の運転は緊張という負荷をいくらか強いるものだからそうなのかもしれない。
そんな訳で、市販の頭痛薬は職場の仕事机の抽斗にいつも入れてあり、勿論自宅にも常備している。厄介なのは、発症の頻度が年に精々10回くらいなので、使用期限までに薬が余ってしまい、いつも残りを処分する破目になることである。処分すればまた新たに買い置きする。そして使い切れずまた捨てる。実に勿体ないことを繰り返していた。
その後、友人に頭痛は両足裏の親指のところがツボになっていることを教わった。自宅に両足裏全体のツボをマッサージするいくつものイボが付いたボードがあった。何かで家族が貰ったものだろう。自宅にいる時は、閃輝暗点が現れたら、すぐこのボードに体全体を載せて直立し、親指のツボを強く押さえつける。これはかなりの効果があった。
職場にいる時は、偏頭痛発症に備えて日頃からソールにイボの付いたサンダルを履くようにしていた。勤務中に閃輝暗点が現れたら、トイレに駆け込む。便座のある個室に籠って目を閉じる。数分立ち尽すと暗点は消え、頭痛までには至らず事なきを得る。これもそれなりに有効だった。
ツボが判ってからはなるべく薬を服用しないようにしていた。頭痛薬はどんなものでも胃を荒らす成分が必ず入っている。胃を荒らすことが少ないと能書きに謳っていても、少なくとも私の場合は確実に胃をやられる。空きっ腹だと覿面である。1回でも服用すると、2、3日は胃の調子が悪い。なるべく食後に服用するようにしていたが、時によってはどうしても空腹時服用になってしまう時がある。慌ててお菓子か何かを口に入れて何とか胃への負担・衝撃を和らげようとするが、効き目がない場合もしばしばあった。
偏頭痛のことをネットから情報収集していた頃、偏頭痛は60歳を過ぎると消えるということを知った。当時はまだ若く、自分にはそれはまだ先のことであるとあまり気にかけていなかったが、記憶の隅には一応留めていた。
そしていよいよ60代となり、何もしない、精神的にあまり負荷のかからない年金暮らしとなる。気楽と言えば気楽。毎日が週末みたいな生活を送っていたのだが、それでも週末頭痛の徴候が偶に現れた。その都度、例のボードで足裏のツボを押さえつけ、何とかそれで凌いでいた。
先日、いつもやっている午後のサイクリングの途中に、ハンドルを握りながら閃輝暗点が出てしまった。ヤバいなとすぐ思ったが、どうしようもないので開き直ってペダルを漕ぎ続けた。そうしたら、そのまま閃輝暗点はフェイドアウトしたではないか。もちろん頭痛も起きなかった。私は現在68歳。どうやら長年付き合ってきた、付き合わされてきた頭痛とはいよいよお別れのような気がしてきた。
20数年前、若かった頃に入手したネット情報のとおりの状態になったのかもしれない。恐らく今後は、寝込むような酷い週末頭痛に襲われることはないのではないか。そんな期待を持っている。私のささやかな宿痾といよいよオサラバできそうな気がしている。
最後に笑い話みたいなことを一つ書きたい。週末頭痛というのは1週間のうち月曜からの5日間をきちんと働いて、金曜の夜とか翌日の土曜に発症するからそういう名称(俗称)で呼ばれるのだろう。ところが私の場合は週末の時もあるが、週の始めや中頃でも、要するにいつでも週末頭痛を起こしていた。自分でも呆れてしまうのだが、理由は簡単である。
私は堪え性がなくて辛抱が足りない人間(いくらか発達障害的なところがあるのか?)である。だから緊張感の持続性が途切れてしまうことが多い。つまり5日間ももたないのである。変な言い方だが、常にいつでも週末的な感覚に陥ってしまう可能性があった。暢気な職場(給料は安かったが)と言えばそれまでの話しだが、そんな勤務態度で40年近くも働いてきた訳である。
ちなみに辛抱が足りないことで、週半ばの水曜日に有給休暇をかなりしばしば取っていた。それで火曜の夕方などに週末頭痛になったこともたびたびある。仕事に対して生真面目に向き合う方には考えられない話しかもしれない(笑)。
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