以前、NHKの「チコちゃんに叱られる!」で、齢を重ねるにつれ、なぜ歳月が過ぎ去るのを早く感じてしまうのか、という問題が出ていた。答えは、年老いてくると記憶力が低下するからというものだった。番組では一つの実験が紹介された。
小学生くらいの子供を対象にして前日にあった出来事をすべて話してもらう。そうすると、子供は朝起きてから夜寝るまでの全部を事細かく話し出そうとする。これを大人にやらせると、話しの内容が実にあっさりしている。子供とは歴然とした違いが表れる。つまり大人にとっての日常の出来事の記憶とは、時間が過ぎるそばから忘れていく代物なのである。
私の頭の中で時間に対する意識が変化している。1日、1週間、1か月、1年といったタイムスパンが速く流れて早く過ぎていく。そのように感じ始めてから随分時間が経つ。高齢者の仲間入りをしてから、特にそれが顕著になっている。
今年の5月から太極拳の練習回数を増やしている。毎週水曜の午後だけでなく、月曜の午前にも宇都宮でやっている集まりに参加するようになった。2年前に初段の検定で不合格となり、2度目の挑戦のために練習量を多くしたのである。
毎日が日曜日の生活を送っているのに、週の初めの月曜の午前からわざわざ宇都宮まで行って太極拳を練習することには少し気持ち的な重たさを感じる。決して億劫になっている訳ではないが、いささか心の準備(覚悟)が必要なのである。そんな生活スタイルになると、この日が毎週の始めにやって来るのが実に早く感じられる。もう1週間が経ってしまったかという感覚で月曜の朝に宇都宮へ車で向かう。ハンドルを握りながら毎回そうなのである。
毎月、ウェブ句会とオンライン句会があり、一課題一句投句なのだが、それぞれの締切日が来るのも実に早い。もうその時期が来たのかといつも慌ててしまう。
1年が過ぎていくのも、振り返るとその流れが実に速く感じられてあっと言う間である。偶に会ったりビデオ通話する孫たちの成長スピードにも驚くことがある。裏を返せば、自分の心身の老化も確実に進んでいる。日課にしている散歩やサイクリングのスピードが毎年少しずつ遅くなっていることはどう自己弁護しても否定できない。そして記憶の衰え同時進行する。それで「チコちゃんに叱られる!」で放送されていたことを俄かに思い出した次第なのである。
速くて早い。そう感じるのは記憶の世界だけであり、当たり前だが時間の速さも早さも少しも変わっていない。強いて言えば、「速い」はやや客観的で「早い」は完全に主観的なものだろうか。この二つの言葉の対義語が「遅い」の一語だけなのもおもしろい。英語なら「slow」と「late」に使い分けられている。主観と客観の線引きにこだわる西洋的思考とそうでない東洋的なものの考え方の違いが語彙にも表れているのかもしれない。
年寄りは早寝早起き、何事も早くてせっかち。それは、歳を重ねれば何事も速くはこなせないからなるべく早くからとりかかりたがる。記憶力も低下しているから、憶えているうちに用件は早目に済ませたい。高齢者の辞書には「早い」は大見出しで記述されていても「速い」は廃語や死語となっているのではないか。
先日、テレビを観ていたらある中年と思しきタレントがスマホの操作のことで嘆いていた。何かちょっとしたことを調べるためにスマホを手にして検索サイトを開こうとする。LINEに何かの通知があるのに気がつく。そっちのことを先に片付けようとしてLINEの画面を開けてメッセージを読んだり返事を送ったりする。それが終わってLINEを閉じる。そして初期画面に戻る。ここで問題が発生する。一体自分はスマホを取り出して何をしようとしていたのか、それをすっかり忘れてしまっている。若い頃なら有り得ないことが齢を重ねてしばしば起きる。その話しにすっかり私は共感した。何かの考え事をしながら冷蔵庫のところまで行く。ドアを開けてふと思う。俺は何を取り出そうとしていたのか、と。まあ、子供では絶対に有り得ない思考と記憶である。
直前の記憶が消えるのは他にも例がある。長々とある話題のことを喋り始めて、一体何を言いたくて相手にその話題を持ち出したのか忘れてしまう場合である。これをやらかして相手に上手くフォローされる回数が実に増えてきた。これも子供なら絶対にそんな事態には陥らない。うーん、ここで深いため息。
ここまで書いてきて、過日の某新聞に載っていたことを思い出した。記憶は忘れるためにある。そうでないと記憶は頭の中に溢れかえって情報処理能力がパンクする。それは正常な認知機能に影響を及ぼす。具体的な個々の記憶の印象が強すぎると、物事を抽象化(概念化)したり、さらに独創的に何かを思いついたりすることが不可能になってくなる。
そのとおりであろう。ちょっぴり救われる。しかし、記憶に支えられているからこそ生きようとする意志が働いていることも確かなんだよなぁ…。
Loading...

















































