(写真はイメージです)
はじめに ― 選者(読み手)の心を動かす一句とは
10月から11月にかけて、秋は日本全国至るところで川柳大会が開催されます。大会ともなると選者が何百もの作品に目を通し、その中から優れた句を選び出します。選者にとってみれば、それは大変な集中力と感性を必要とする作業です。ところが、多くの句を読み進めていると、どこかで聞いたような表現、予想どおりの展開、ありきたりの結末に出会うことがあります。そんなとき、選者の胸中には「またか~」という気持ちが生まれるのではないでしょうか。反対に、思いもよらない視点や新鮮な発想に出会ったときには、「ほう、こんな句ができましたか!」と思わず膝ポンの句に目を留めることでしょう。私は、ここに川柳の選を考えるうえで大切な問題があると思っています。それが「予定調和」と「斬新性」の問題です。
1.川柳における「予定調和」とは
予定調和とは、物事が予想されたとおりに進み、無難な結末に落ち着くことを意味します。もともとは哲学に由来する言葉ですが、文学や芸術の世界では、展開や結末が予測できてしまう作品を評するときにも使われています。川柳における予定調和とは、上五を読んだ段階で中七や下五の展開がおおよそ想像でき、読み終えても新しい発見や驚きが生まれない句のことだと考えます。例えば、次のような句です。
「孫が来て財布の紐が緩くなる」
「定年後妻に頭が上がらない」
「物価高財布の中に風が吹く」
※本文中の川柳は、説明のために作成した例句ですが、いずれも日常生活の実感を詠んだ句です。意味もよく分かり、共感する人も多いでしょう。しかし、孫が来れば財布が緩む、定年後は妻に頭が上がらない、物価が上がれば財布が寂しくなるという展開は、あまりにも予想どおりです。つまり読み手の想像を超えるものが少ないのです。これが川柳における予定調和の典型的な作例です。もちろん、予定調和だからといって、その句に価値がないわけではありません。素直な実感や温かさが伝わる作品もあります。ただし、何百句もの中から選ばれることを考えれば、それだけでは印象に残りにくいのも事実です。
2.なぜ予定調和の句は選ばれにくいのでしょうか
私は、その理由として三つのことが考えられると思っています。第一に、類想句が多いことです。例えば「母」という課題であれば、母の愛情、母の背中、母の手、母の笑顔などが浮かびます。どれも大切な題材ですが、似たような句が数多く集まれば、どうしても印象が薄れてしまいます。第二に、読み手の想像を超えていないことです。上五を読んだだけで下五まで予想できる句は、読み終えても新しい発見がありません。川柳には、わずか十七音の中に人間の喜怒哀楽や人生の機微を凝縮する力があります。その力を発揮するためには、読者の予想を少しでも超える工夫が必要です。第三に、作者自身の発見が不足していることです。世間でよく言われていることを、そのまま五七五に当てはめただけでは、作者ならではの視点が見えてきません。川柳に求められるのは、単なる説明ではなく、作者自身が見つけた人間の面白さや意外な真実ではないでしょうか。
3.斬新性を生む五つの工夫
では、予定調和から抜け出すには、どのような工夫が必要でしょうか。私は次の5項目が斬新性を生むうえで大切だと思います。
① 視点を変えてみる
人間の立場からだけでなく、動物や物の立場から眺めてみることです。例えば、財布の気持ち、靴の気持ち、古い写真の気持ちなどを想像すると、思いがけない発想が生まれます。
② 常識を少し裏返してみる
「親が子を心配する」という常識を「子が親を心配する」という方向に変えてみることです。立場の逆転は、川柳特有のユーモアや皮肉を生み出します。
③ 抽象的な言葉を具体的な情景に変える
「寂しい」「うれしい」「悲しい」と説明するより、その感情が伝わる動作や光景を描くことです。例えば「母が恋しい」と書く代わりに、母の残した割烹着や、使い古した湯飲みを登場させる方法もあります。
④ 異なる世界の言葉を組み合わせる
家庭生活に会社の言葉を持ち込む、恋愛に経済用語を使うなど、異なる世界の言葉を組み合わせることで新鮮な句が生まれます。ただし、奇抜な言葉を使えばよいというものではありません。句の内容と自然に結びついていることが大切です。
⑤ 最初に浮かんだ句は類想句が多い
課題を与えられて最初に思い浮かぶ句は、他の人も思いつく可能性があります。そこで、最初の一句で満足せず、二句、三句と発想を広げてみることです。「見立てを広げる」私は、ここに推敲の大きな意味があると思います。
4.斬新性とは奇抜さではない
ここで注意したいことがあります。それは、斬新性を追い求めるあまり、意味の分からない句や、無理に言葉をひねった句になってしまうことです。川柳の斬新性とは、単なる奇抜さではありません。誰もが知っている日常の中から、誰も気づかなかった一面を発見することです。例えば、母の愛情を詠む句であっても、ありふれた言葉を並べるのではなく、母と子の具体的な情景を描くことで、深い感動が生まれます。また、斬新な句が必ずしも難解である必要はありません。むしろ、読んだ瞬間に意味が分かり、その後で「なるほど、そういう発想があったのか」と感心させる句こそ、川柳の魅力を備えていると思います。そして、もう一つ大切なことは、斬新性だけで選が決まるわけではないということです。選者によって作風や評価の基準は異なります。新奇な発想よりも、深い実感や素直な感動を高く評価する選者もいるでしょう。それでも、類想から抜け出そうとする努力は、作品の質を高める大切な道筋になると思います。
5.選者に「ほう!」と言わせる一句を
川柳大会では、選者が短時間のうちに何百もの作品を読みます。その中には、技術的には整っていても、どこかで見たような句が少なくないでしょう。選者も人間です。似たような句が続けば、どうしても新鮮味を感じにくくなるのではないでしょうか。そんな中で、思いがけない切り口の一句に出会えば、思わず手が止まることもあるでしょう。「こんな見立てがあったのか」「この作者の観察力は凄い」そんな感想を引き出す作品を詠みたいものです。もちろん、選者の好みを先回りして句を作ることが、川柳の本来の目的ではありません。しかし、自分の作品を客観的に見つめ、ありきたりな発想に安住しない姿勢は、創句において大切だと思います。
6.天位を目指すための最後の推敲
私は、川柳大会に投句する前に、次のような問いを自分自身に投げかけることが必要だと考えています。
-
誰もが思いつく類想句にはならないか。
-
上五を読んだ段階で下五が予想できてしまわないか。
-
自分だけの発見がこの句にはあるか。
-
説明しすぎてはいないか。読者が想像する余地を残しているか。
-
選者が思わず目を留める何かがあるか。
この問いを忘れずに推敲することが、予定調和から抜け出す第一歩になると思います。
7.おわりに ~川柳にもっと斬新性を!~
川柳は、わずか十七音の短い文芸です。しかし、その十七音の中には、人生の喜びも悲しみも、社会への批評も、人間への温かなまなざしも込めることができます。だからこそ、私たちは既成の発想にとらわれず、新しい視点を探し続けたいものです。「予定調和」の句は、読み手に安心感を与えることがあります。一方、斬新な句は、読み手に驚きや発見をもたらします。その両方に川柳の魅力がありますが、何百句もの中から光る一句を目指すのであれば、やはり作者独自の発見が必要ではないでしょうか。「またですか」と言われる一句から、「ほう、こんな句ができましたか」と感心される一句へ。川柳に、もっと斬新性を。そして、日常の何気ない出来事から、まだ誰も見つけていない十七音の世界を切り開いていきたいものですね。それが新たな川柳の魅力に繋がっていくのではないでしょうか。
柳山
Loading...








-600x400.png)







-600x244.png)





































