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(写真はイメージです)

西田當百の世界

~「番傘」の礎を築いた関西川柳界の先駆者~

近代川柳の歴史、とりわけ関西川柳界の歩みをたどるとき、忘れてはならない人物が西田當百(にしだ・とうひゃく)です。今日まで百年以上の歴史を刻んでいる「番傘」の源流を築き、のちに川柳六大家の一人となる岸本水府らを育てた人物でもあります。水府が「番傘」を大きく育てた人だとすれば、當百はその種を蒔き、土台をつくった人といえるでしょう。

■ 西田當百の生涯

西田當百は1871(明治4)年2月21日、若狭国、現在の福井県に生まれました。本名は西田嘉吉です。28歳のころ大阪毎日新聞社の活版部に入り、勤務のかたわら35歳ごろから本格的に川柳を始めました。明治末期の関西川柳界では、小島六厘坊が新しい川柳運動を進めていました。當百も1906(明治39)年ごろ、「大阪新報」の小島六厘坊選の柳壇へ投句しています。六厘坊は1909(明治42)年、わずか22歳で亡くなります。その同じ年、當百を中心として関西川柳社が設立されました。ここから関西における近代川柳の新しい流れが形成されていきます。そして1913(大正2)年、當百は岸本水府らとともに柳誌『番傘』を創刊しました。1944(昭和19)年6月30日に亡くなりました。74歳でした。句集には『当百句集』があります。また、1926(大正15)年刊行の『明治大正時事絵川柳』にも、西田當百らの作品が収められています。

■ 「番傘」の源流をつくる

西田當百の最大の功績の一つは、現在まで続く「番傘」の基礎を築いたことです。1909(明治42)年に當百を中心として関西川柳社が生まれ、1913(大正2)年には柳誌『番傘』が創刊されました。當百の後を受けて岸本水府が中心的な役割を担い、「番傘」はやがて全国へと広がっていきます。現在の番傘川柳本社も、その設立年を1909(明治42)年、初代会長を西田當百としています。つまり、當百から水府へと渡された一本のバトンが、その後の百年以上にわたる番傘川柳の歴史につながっているのです。

■ 岸本水府を育てた先達

當百の功績を考えるうえで、岸本水府との関係も欠かせません。水府は1909(明治42)年、西田當百に師事し、本格的な川柳活動へ入っていきました。その水府が後年「番傘」を全国的な川柳結社へと発展させ、近代川柳を代表する川柳人となりました。師である當百が関西川柳の基盤を築き、弟子の水府がそれを大きく発展させた――この師弟関係は、近代川柳史の重要な流れの一つといえるでしょう。

■ 大阪の庶民生活を十七音に

當百の川柳には、難しい理屈を前面に出すより、人間の暮らしを面白く、鋭く見つめる姿勢があります。大阪の酒場、人付き合い、夫婦や家族、日常生活のちょっとした機微、そうした庶民の生活の中から川柳をつかみ取ります。その代表的な一句が、『上燗屋ヘイヘイヘイとさからはず』です。この句は『番傘』創刊号の巻頭第一句として掲載された作品とされ、現在、大阪・法善寺横丁には句碑があります。酒場で客が何を言っても、「ヘイヘイヘイ」と逆らわずに相槌を打つ。その声だけで人物も店の空気も見えてきます。説明し過ぎず、会話の一部分を切り取るだけで人間を浮かび上がらせる。現代の川柳にも十分通じる巧さがあります。

■ 西田當百の川柳に見る「軽み」

當百の作品には、古川柳以来の「うがち」や「軽み」が生きています。たとえば、『ない筈はない抽斗を持って来い』という句があります。何が「ない」のかは書いてありません。それでも、探し物をしている人の苛立ちや家族とのやり取りまで目に浮かんできます。すべてを説明しないからこそ、読者の想像力が働きます。川柳は難しい言葉を使わなくても、人間を深く描くことができる。當百の作品は、そのことを教えてくれます。

■ 當百から水府へ、そして現代へ

西田當百の名は、岸本水府ほど一般には知られていないかもしれません。しかし川柳史の流れを見ると、その存在は非常に大きなものです。小島六厘坊らによって広がり始めた近代川柳の流れを受け継ぎ、関西川柳社を組織し、『番傘』を創刊する。そして岸本水府ら次の世代へ川柳の火を渡しました。水府が後に「番傘」を全国へ広げることができた背景には、當百が築いた土台がありました。一人の優れた作者であると同時に、次代の川柳人が活躍できる「場」をつくった人だったのです。

■ おわりに

西田當百の作品を読むと、百年を超える歳月を感じさせないところがあります。酒を飲む。友と別れる。物を探す。人の言葉に相槌を打つ。題材はどれも、ごく普通の日常です。しかし、その何でもない生活の一瞬から人間のおかしさや寂しさを拾い上げ、十七音にするところに川柳があります。日常を見つめれば、そこに川柳がある。西田當百が残した作品と「番傘」の歴史は、そんな川柳の原点を今の私たちにも語りかけているように思います。

柳山

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