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音楽は脳を活性化させる

~楽器を演奏することは最高の脳トレ~

音楽を聴くと、気持ちが明るくなったり、昔の出来事が鮮やかによみがえったりすることがあります。しかし、音楽の力はそれだけではありません。特に「楽器を演奏する」という行為は、耳、目、指、呼吸、記憶、判断などを同時に使う、とても複雑な活動です。そのため、音楽は楽しみであると同時に、脳に多方面から刺激を与える活動として注目されています。

■ 楽器を演奏すると脳は大忙し

例えば、楽譜を見ながら楽器を演奏する場面を考えてみましょう。まず目で楽譜を読みます。次に「これは何の音か」「どのくらいの長さか」「どのくらいの強さで演奏するか」を瞬時に判断します。そして、その情報を指や手、場合によっては呼吸や口の動きに変換します。さらに自分が出した音を耳で聴き、「音程は正しいか」「リズムは合っているか」「もっと柔らかく吹いた方がよいか」と判断し、次の演奏を修正します。つまり、見る → 読む → 判断する → 動かす → 聴く → 修正するという作業を、わずかな時間の中で繰り返しているのです。

楽器演奏が「多感覚・運動活動」と呼ばれる理由がここにあります。音楽訓練では、聴覚、視覚、運動機能などを結びつける脳の働きが重要で、成人になってからも経験に応じた脳の可塑性が起こり得ることが研究されています。

■ 「聴く音楽」と「演奏する音楽」の違い

好きな音楽を聴くことにも大きな魅力があります。しかし、楽器演奏には「自分で音を作る」という特徴があります。演奏するときには、音を聴くだけではありません。楽譜を読み、次の音を予測し、指を動かし、リズムを保ち、間違いを発見し、その場で修正します。つまり楽器演奏は、受け身の活動ではなく、脳と身体が一体となった能動的な活動なのです。特に新しい曲を練習するときには、「分からない」「できない」という状態から、「少しできる」「できた」という状態へ進んでいきます。この「新しいことを学ぶ」という過程そのものが、脳にとって重要な刺激になります。

■ 高齢者にも期待される楽器練習

興味深いのは、高齢になってから楽器を始めても認知機能への効果が期待されていることです。2024年に発表された、60歳以上の健康な人を対象とした13研究、計502人のデータをまとめた研究では、楽器訓練によって、情報処理速度や注意・抑制、課題を切り替える能力など、一部の実行機能に改善が認められました。一方、ワーキングメモリーや言語記憶など、明確な効果が確認されなかった領域もあります。したがって、「楽器を演奏すれば認知症にならない」とまでは断言できませんが、「高齢になってからでも、楽器を習うことは脳に複合的な刺激を与える有望な活動である」とは言えそうです。高齢者の音楽実践についての別の研究レビューでも、聴覚だけでなく、処理速度、注意、抑制など、加齢によって変化しやすい認知機能との関連が報告されています。

■ なぜ楽器練習は脳によいのでしょうか

楽器練習の大きな特徴は、多くの脳の機能を使う複合的な作業であるということです。

① 記憶する

メロディー、指使い、リズム、曲の構成などを覚えます。

② 集中する

演奏中は楽譜、音程、リズム、指の動きなどに注意を向け続けます。

③ 指や身体を動かす

ピアノなら左右の手を別々に動かします。管楽器なら指だけでなく呼吸、舌、唇なども使います。

④ 耳で確認する

自分の音を聴き、音程や音色を判断します。

⑤ 間違いを修正する

失敗した場所を見つけ、原因を考え、繰り返し練習します。

⑥ 感情を表現する

同じ音符でも、強弱やテンポ、音色によって表情が変わります。「どう表現するか」を考えることも演奏の重要な部分です。

このように楽器演奏は、認知活動と運動活動を組み合わせた非常に複雑な作業なのです。高齢者を対象にした楽器演奏研究でも、演奏には注意を維持する、刺激の変化を認識する、適切な動作を選択するといった認知処理が含まれることが指摘されています。

■ 「上手に弾くこと」だけが目的ではありません

脳の健康という観点から考えれば、必ずしも難しい曲を演奏する必要はありません。むしろ大切なのは、少し難しいことに挑戦することではないでしょうか。昨日できなかった小節が今日は吹けた。うまく動かなかった指が少し動くようになった。覚えられなかったメロディーを暗譜できた。こうした小さな達成感があるからこそ、練習を続けることができます。そして「楽しみながら続けられる」という点こそ、音楽の大きな強みです。

■ フルートは全身を使う楽器

管楽器、とりわけフルートを考えてみると、この特徴がよく分かります。楽譜を目で追いながら、左右の指を動かし、息をコントロールし、唇の形を調整し、舌で音の立ち上がりを作ります。しかも自分の音を耳で聴きながら、音程や音色を瞬時に修正します。さらに合奏となれば、指揮者を見て、周囲の演奏を聴き、自分の音量やテンポを合わせなければなりません。演奏者本人は「音楽を楽しんでいる」だけかもしれませんが、その間、脳は実に多くの仕事をしていることになります。

■ 何歳からでも「新しい一曲」に挑戦する

「もう年だから、新しい楽器を始めても遅い」そう考える必要はありません。成人の脳にも経験に応じて変化する可塑性があり、音楽訓練はその研究対象にもなっています。ただし、最近の高齢者を対象とした神経科学研究をまとめたレビューでは、ピアノ練習などによる脳構造・機能の変化を示唆する結果がある一方、研究数がまだ少なく、研究方法にもばらつきがあるため、「楽器練習によって高齢者の脳が必ずこのように変化する」と断定できる段階ではないとされています。科学的には慎重さが必要ですが、「新しいことを覚え、身体を動かし、耳を使い、楽しみながら続ける」という楽器演奏の特徴は、高齢期の活動として大変魅力的です。

■ 音楽は「楽しむ脳トレ」

脳のために何かをしなければならないと思うと、それだけで少し疲れてしまいます。しかし音楽なら、「脳を鍛えなければ」と思わなくても構いません。好きな曲を一曲練習する。昔吹いた曲をもう一度取り出してみる。仲間と合奏する。新しい曲に挑戦する。その時間そのものが楽しいからです。そして、その楽しい時間の裏側で、目も、耳も、指も、記憶も、判断力も働いています。音楽とは、楽しみながら脳と身体を同時に使える、生涯続けられる知的活動なのかもしれません。若いころには「上手になりたい」と楽器を練習します。年齢を重ねれば、それにもう一つ意味が加わります。楽器を奏でることは、音楽を楽しむことであると同時に、自分の脳に新しい刺激を送り続けることでもあるのです。今日も楽器を手に取り、新しい一音を奏でてみませんか。その一音から、脳の小さな冒険が始まります。

柳山

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