Loading...Loading...

 夏が来れば蚊取り線香(厳密に言えば線香ではないが)を持ち出して使い始める。大体どこの家庭でもそうするのが一般的だろうが、私の家は数年前から蚊取りを使っていない。
 猛暑日のような暑さが続くと、蚊があまり発生しないのである。これはテレビのニュースなどで話題になったことでもあるが、我が家でもそれを実感している。それで蚊取りをわざわざ使うほどでもないなと思うようになったのである。
 さらに、齢を重ねて蚊との向き合い方に微妙な変化が出てきたことにもよるだろうか。ある川柳仲間が「自分の腕などに蚊が止まった際にはすぐに手で叩かない。充分血を吸わせて蚊の体が重くなったらピシャリと一撃して殺す。これが最近の俺のやり方だ」と、面白可笑しく語っていた。ふーん、なるほどなぁと思ったが、70歳近くになってその心境が少しずつ分かるようになった気がする。
 蚊を敵視する感情の度合いが低くなっている。例えば小さいお子さんがいる家庭では、蚊に刺されないよう神経質になるだろう。蚊取りを使用するだけでなく、虫よけスプレーなどの備えも怠らず、もし刺されてしまったら痒み止めの薬を塗布する。
 私はもう虫よけスプレーや塗り薬はほとんど使わない。予防も事後の処置もあまりやらない。刺されたら刺されるままにするような感覚が芽生えてきている。仏教思想の殺生などという言葉を大袈裟に使いたくはないが、蚊が家の中を飛び回る程度のことで一々目くじらを立てなくなった。若かった頃に経験した、寝床で飛び回る蚊の羽音でなかなか眠りに入れなかった苦い思い出が、今では懐かしく感じてくる。加齢により羽音にもかなり鈍感になってきた。
 来年の夏も蚊取りは持ち出して使うことはないかもしれない。子供の頃、渦巻きの蚊取り線香に火を着けて煙が漂う動き、その煙で飛んでいる蚊がストンと落下する瞬間、灰が無音で崩れ落ちる有り様、そんなことをおもしろがって観察していた。私はランニングシャツに半ズボンの少年だった。

ポストする LINEで送る ブックマーク
❤️ ひざポン
ありがとう!

気軽にポチっと
どうぞ(無記名)

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Post Navigation

Copyright All rights reserved. SHINYOKAN PUBLISHING illustration by Nakaoka.K