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 私が入会しているコーラスサークル(団員9名)は、年に1度のコンサートを毎年開催している。入場無料で地元の方がいつも数十名聴きに来てくれる。今年は8月末にそれが予定されているので、団員は春頃から数か月間にわたって練習を重ねてきた。披露する曲目は例年と同じように昭和歌謡がメインで、その中にフォークソングが2曲含まれている。ジローズの「戦争を知らない子供たち」と青い三角定規の「太陽がくれた季節」である。
 「戦争を知らない子供たち」(作詞:北山修/作曲:杉田二郎)は、1970年にシングル盤が発売されたが、その翌年、私が中学3年生の頃に大ヒットとしたと記憶している。この歌には私なりの思い出がある。
 歌詞の内容を読んで、当時の私は、この歌はやばいのではないかと密かに危惧したのである。1945年の終戦から既に25年が経過している。戦後日本の高度経済成長が続く中、1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万博など、日本国民のほとんどが関心を示すような大イベントが開かれていた。もはや戦後ではない、などと言われてから既に久しい時間が過ぎていた。
 しかし、戦前に生まれ育って大東亜戦争に巻き込まれた人たちがまだ国民の多くを占めていた。そういった方々の心情を慮ると、あの歌詞の内容はいかにも軽薄で能天気に思えた。こんな浮付いた言葉を並べて歌っていいのだろうか。15歳だった私には疑問に思えたのである。案の定、右翼的な思想を持った作家が不快感を表明していたことを憶えている。
 戦争にまつわる苦労を親から散々聞かされて育ったのが、昭和30年代生まれの私たち世代である。母親は食糧事情が酷かったことを折にふれ話題にしていた。そういう艱難辛苦の体験をした世代によって今の日本の復興と繁栄があるだという認識を子供心に持たされていたのである。
 歌詞を読んでいくと「戦争が終わって僕らは生まれ育った 平和の歌を口ずさみながら歩き始める云々」とある。さらに2番では「髪の毛が長いことが許されないというなら 涙をこらえて歌うことだけが残されている云々」と続き、最後の3番では「青空や花びらが好きな素敵な人なら 輝くの夕陽の小道を一緒に歩いていこう云々」となっている。さびの部分「僕らの名前を覚えてほしい 戦争を知らない 子供たちさ」は3回も繰り返される。こんなことを宣うのはあまりにもオメデタイ頭の持ち主なのではないか。私はそう感じた。
 当時泥沼化していたベトナム戦争は、もちろん日本でも他人事ではなかった。沖縄もまだアメリカから日本に返還されていなかった。そういった内外の状況を踏まえると、平和の大切さ、反戦思想が盛り上がることは自然な成り行きだったろう。もちろんその前には安保闘争があり、学生運動が各地の大学や高校にまで広がっていた。それでも、だからと言って戦争経験が全く無いことを誇りに思う気には到底なれない。それが私の思いだった。
 その後、母親にねだってフォークギターを買ってもらった。自分の部屋で一人教材を開いて練習した。しかしなかなか上達しない。学校にはギターの得意な友達もいたので、その友達に教えてもらったが一向に上手くならない。ネックを握って譜面どおりにコードを押さえられないのだ。何度も練習を繰り返して押さえ込もうとしたのだが、やはりダメだった。いい音色にならない。そして気がついた。私の手は平均的な大きさだったが、5本の指が左右ともかなり細い。いくらネックを強く握っても6本の弦を器用に押さえられない。だから旨く響かない。それが判ってからは劣等感に陥った。そして自分には無理だと諦めるようになり、ギターを弾くことから遠ざかった。
 しかし「戦争を知らない子供たち」だけは難しいコード進行ではなかったので、何とか弾くことが出来ていた。私が唯一ギターを弾いて唄える曲がこれだった。だから何度も弾いて歌った。この歌に対して抱いていた後ろめたさや歌うことへの躊躇いもいつの間にか消えていた。
 今回コンサートでこの歌を歌うことになり、改めて振り返ってみると、中学生の頃に抱いた思いは決して消えていなかったことに改めて気づいた。やはりこの歌には能天気なところがある。今度の発表会でも私だけはそういう思いを脳裡の片隅に置きながら、多分歌うことになるだろう。なお、村野武範が主演したテレビドラマ「飛び出せ!青春」の主題歌である「太陽がくれた季節」の方には何のこだわりもない。

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