先日、車の運転中にラジオを聴いていたら、フランス語には日本語の「よろしくお願いします。」に相当する文はないことが話題として取り上げられていた。これはおもしろそうだと、自宅に帰ってから早速パソコンでこのことを調べ始めた。いろいろ検索してみると、フランス語だけでなく欧米の言語には、そもそもこれと同じ言い回しは存在しないことが判った。
それならば「よろしくお願います。」って一体どういう意味なのだろう、と考え込んでしまった。何がよろしくてどうお願いするのか。どれほどの意味がこのフレーズにあるのだろう。この表現を用いることは単なる挨拶程度のものなのか。いろいろな例文の具体的な文脈を辿ってみると、その状況によって付与される意味がかなり異なることが判ってくる。
初対面の時に相手に対していきなりこれを持ち出すと、例えば『これからあなたと上手く話し合いを進めていきましょう』などいう意味合いになってくる。その後の別れの場面でまたこれを使えば『今後も仲良い関係を続けていきましょう』などと解釈できる。
「よろしくお願いします。」は、言葉のやりとりの始めと終わりに紋切り型で持ち出される挨拶以上でもそれ以下でもない言葉になるのだろうか。単なる挨拶レベルだとすると、別に言わなくても会話に問題が発生する訳ではないが、円滑な人間関係を築いてそれを維持するためには挨拶程度のものでもやはり大切である。少なくとも相手に対して敵意はない、好意的な関係を持続させたいという意思は伝えるに越したことがないからである。
お役所言葉に「よろしくお取り計らいください。」という言い方がある。何かを依頼したり、了承してもらったりする文書には、最後によくこれを付け加える。相手が快く思うか思わないかは別にして、とりあえずこれで文章を締めくくる。これも挨拶程度のものである。依頼に応えてくれない可能性が高くても、あるいは了承してくれなさそうであっても一応はこれを書き記す。
枕詞のように用いられる「よろしく」については、「悪しからず」と言い換えることがある。この二つの間には微妙なニュアンスの違いがあるが、それが先方にどこまで伝わるかは難しい面も出てくる。
Wikipediaで挨拶を調べると、出会う際や別れ際など、特定の場面で純粋な礼儀やその他の意図をもって行われる形式的な語句や動作、式典などで儀礼的に述べる言葉というふうに記されていた。受け答えを形式化することで、誤解なく意思表示ができるため、日常生活などでの不和を避ける働きが期待できる。他方、極端に形式化された受け答えは、官僚制と同じように冷たさや無関心さを帯びてゆく、とも説明されていた。
日本語の「よろしくお願いします。」は様々な場面で使われる便利なものだが、重宝がって安易に使われると誤解を生じさせる。何につけ声をかけられるハワイの挨拶言葉「アロハ」のような感覚で、いつでもどこでも誰に対しても安易に使い過ぎてしまうと、トラブルを起こしかねない。「よろしお願いますと言いましたよね」とか「よろしくお願いされた覚えはない」とか、こういうこじれ方は挨拶を超えた次元での言葉尻を捉えたトラブル発生である。
挨拶レベルと本文・本論の次元の違いを混同されてはまずい。だからといって、これを避けるために挨拶を省くことは難しい。礼を失する。しかし最近は、SNSやeメールで何か用件を伝えたい場合に、挨拶の言葉を省く人が増えてきている。LINEなどではいきなり用件を伝えても不躾にならないことがある。挨拶表現はかえって余計なものという印象すら与えることもある。時候の挨拶を割愛する「前略」の言葉すら省かれてしまう。
考えてみると、何につけ「よろしくお願いします」の決まり文句を使いたがる習わしは、何につけ曖昧な表現を好みたがる日本語文化特有の背景にきちんと収まっていることに改めて気がつく。
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