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 以前「食べながらあまり歩かぬ食べ歩き」という句を詠んだことがある。「食べ歩き」の使い方が何となく気になってネット検索してみると、まず「goo辞書」には、概ねこのように記されていた(分かりやすくするために若干読みやすくしている)。

 その土地の名物料理や珍しい食べ物を、あちこち食べて回ること。例として「一人で気楽な食べ歩きを楽しむ」。ただし補説として、近年「歩きながらものを食べること」の意で用いられる場合がある、とのこと(→歩き食い)。出典はデジタル大辞泉(小学館)。

 拙句の「食べ歩き」の措辞は、この説明にある補説から言えば「歩き食い」の方に該当するようだ。ただし「歩き食い」という言葉はどれほど定着しているのだろうか。少なくとも私はあまり聞いたことがない。「買い食い」なら、小学生の頃、下校時にこれをしてはいけないと担任の先生からよく注意されていた記憶があるが…。
 このほかにNHK放送文化研究所のサイトにある、「食べ歩き」の用法を解説したページが気になった。そこにはこのように記されている。

Q 最近、「歩きながら食べる」の意味で「食べ歩き」を使っている例をよく耳にします。正しい使い方でしょうか?
A 旅番組や情報番組などで、「食べ歩き」を「歩きながら食べること」の意味で使うことがあるようです。しかし、「食べ歩き」は、本来は「土地の名物料理やめずらしい食べ物などをあちこち食べてまわること」(『日本国語大辞典』)の意味で使うことばです。放送を聞いている人が誤解しないように、少なくともニュースなどでは、このような使い方は避けたほうがよいでしょう。] (以下に細かな解説が続いているが割愛する。詳しくは「食べ歩き」の使い方|NHK放送文化研究所をクリックしてください)

 NHKの方は、本来の意味から外れた使い方(歩きながら食べること)については、どうも否定的なニュアンスが漂っているようだ。でも世間での使われ方は、徐々にかもしれないが、「歩き食い」の意味合いの方で用いられているのが多いのではないか。テレビの旅番組の「食べ歩き」の場面と言えば、何か食べ物を手にしながら歩くイメージの方がすぐに思い浮かぶことだろう。
 50年近く前、東京銀座に歩行者天国が登場し、マクドナルドの日本第1号店がオープンした。ハンバーガーを頬張りながら、ミニスカートやベルボトム(これはもう死語か?)のジーパン姿の若者が開放された車道を楽しく歩く姿が話題になった。ものを食べながら歩くなんて、当初は顰蹙を買うような振る舞いだったが、いつの間にか定着し、もう非難する者などは誰もいなくなった。歩きながら食べることも食べながら歩くことも、少しも不自然な行動ではなくなっているのである。
 そもそも「食べ歩き」の本来の意味が「土地の名物料理やめずらしい食べ物などをあちこち食べてまわること」であっても、厳密に言えば今時そんなことを歩いてする輩はおるまい。歩こうなどとせずに電車やバスに乗る、車を運転する。これが食べて回る一般的な移動パターンだろう。だから現実には、徒歩による字義どおりの「食べ歩き」はあまり存在しない。本来の意味の「食べ歩き」は確実に死語に近づいている。瀕死寸前である。
 「食べ歩き」は、京都や鎌倉などで美味しいスイーツや揚げ物を手にして食べながら、名所やお土産店を歩いて見て回るようなことが既に典型的なイメージとなっている。いずれ将来的には「食べ歩き」の意味は逆転しているはずだ。そうなった暁には、保守的な傾向のあるメディアも国語辞書編纂者もそれを素直に認めて書き換えざるを得ないだろう。

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