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 今はインターネットが当たり前の時代で、何につけペーパーレス化される傾向が進行している。それ以前は紙媒体が主役の図書館や書店は一人で自由に楽しめる思考空間だった。
 約50年前、大学生になって東京暮らしをするようになり、大型書店の凄さや公共図書館の充実ぶりに驚いたものだった。大学2年生になってから、古書店に興味を持ち始めた。
 授業で使う教科書や参考書は何も新品のものを定価で購入する必要はない。早稲田には何十軒もの古本屋がある。当然そっちの方が安く売られている。経済合理性という単純なきっかけで、通りに並んだ古書店に出入りするようになった次第である。
 さらに言えば、私は子供の頃から古いものが大好きである。だから、他人が一度読んで少し手垢が付いた本でもあまりこだわりはない。性格的に些か神経質なところがあるが、古書については全く平気だった。
 さて大学3年の頃だったか、ある古書店で東京都内の古書店を紹介するガイドブックを見つけた。これは新品のものであったがすぐに買い求めた。ビニールカバーの付いた新書判サイズだったことを記憶している。このガイドブックはそれぞれの店の概要(品揃えの傾向・住所・電話番号)と略地図が載っている。そして当時の東京には、駅を降りれば大体は古書店が存在していた。一人でわざわざ出かけて巡り歩いただけでなく、何かの用があって何処かへ行く際にも、近くに古書店がないかガイドブックで事前に確認して、あれば帰りがけに一応覗いてみるようなこともしていた。
 ついでに言うと、古書店巡りをする場合、ガイドブックに書かれた略地図だけでは心もとないので東京都の区分地図帳も必ず携行した。スマホなどがなかった時代、これはどこへ行くにも頼りになる必須のツールだった。初めてのアルバイト先に向かうような時にも、これがないと目的地へはなかなか着けないことがあって大変重宝した。かなりボロボロになったが、今でも持っている。
 古書と古書店の魅力は、まず、店に入ってから感じる特有の匂いと静けさにある。これが賑やかな商店街の中にあって、独自の異空間を作り出している。匂いは脳裡をじんわり刺激してくる。
 次に、以前から買って読んでみたいと思っていた書籍を偶然見つけた時の感激である。既に絶版となってしまってなかなか手に入らないものや、新品よりかなり安くなっている掘り出しものに出遭えたなら、気持ちも相当昂る。嬉しくて早速購入してしまう。
 書き込みがあるものを立ち読みで捲ってみるのもおもしろい。会ったこともないかつての購入者のことを想像したくなる。見返しのところなどに名前や学校名が書かれている場合は、一体どんな人なのかと更に興味をそそられることもある。
 古書店巡りは足腰も強くさせる。店を探し出すためにとにかく歩く。なんと健康的であったことか。情報の検索イコール歩いて探索の時代だった。
 インターネットが普及するまでは、こんな呑気で長閑なことを楽しみにしている人間が私以外にもたくさんいたことだろう。当たり前のことだが、もうそんな世の中には戻らない。

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