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 現役の頃は、会議などの資料作りにPowerPointをよく使っていた。退職するとその画面を開く機会が少なくなり、最近は操作も覚束なくなってきた。
 さて、PowerPointのスライド(もうこの言い方も古くて変なものだが)の印刷画面を開くと、「配布資料」という設定が出てくる。現役時代からこの言葉の中の「配布」の用字が気になっていた。
 「配布」の「布」は当たり前だが「ぬの」と読む。布のように広い範囲で行き渡らせる、行き渡るという意味が込められている。薬剤を散布する、新憲法を公布する、軟膏を塗布する、噂が流布する。こんな用例を挙げればすぐに理解できよう。
 「配付」の「付」は「つ(ける・く)」と訓読みする。特定の人に配る・渡す・与えるというような意味合いがある。お金を寄付する・補助金を交付する・書類を送付する・食料を給付する。どれも特定の人がその対象として想定されている。「布」とは大違いである。
 ネットで調べると、法令においては、「配付」は配付金などという言い回し以外はあまり使われず、原則として「配布」を用いることと定められているようである。つまりお役所では「配付資料」という言葉は存在しない。「配布資料」だけが正しい表現ということになる。当然、PowerPointを開発したMicrosoft社はその辺の事情を調べ上げて、この表記を印刷画面に入れ込んだのだろう。
 うーん、公文書や法令についての用語は、法務省だか内閣法制局だかよく知らないが、そこら辺りの役人が勝手に取り決めを作ったのだと推測されるが、この用字は全く以てセンスがない。何かの重要会議でマル秘文書を資料として配る場合でも「配布」資料として取り扱うのか。おそらく会議では出席する一人一人の委員に対して、丁寧にマル秘と注意書きされた文書を配って、終われば回収するのではないか? 「それが『配布』かよ、『配付』じゃねえの?」 と言いたくもなってくる。
 私は理屈っぽい人間なので、法律が嫌いではない。NHK総合で毎週土曜のお昼に放映されていた「バラエティー生活笑百科」をよく観ていた。上沼恵美子の喋くりが大好きだった。登場する弁護士の解説も毎回勉強になった。しかし、世の中は法律だけで成り立っている訳ではない。それ以外の価値観・道徳観の方がはるかに重く社会生活を支えている。いわんや法令用語などというものは、仮に役所の狭い世界で勝手に決められたとしても、それが世間にすんなり「布」のように広がっていく訳ではない。もっと言葉のセンスを磨いて欲しいと思う。役人の国語力の限界を感じる次第である。
 私は「配布資料」を決して使わない。私の頭の中の国語辞書には「配付資料」の言葉しか存在しない。会議資料は一人一人に渡す文書であり、ビラなどのようにばら撒くものではない。なんか頑固親父みたいになってくるので、これくらいでもう止めまーす。

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資料を配布するなんてできない!”にコメントをどうぞ

  1. 橋倉 久美子 on 2023年4月4日 at 7:47 AM :

    勤めているとき、特定の言葉にこだわりのある数学教師がいました。
    以下、その数学教師に教えてもらい、なるほどと思ったのでそのように使い分けていることを2つ。

    1 「配付」と「配布」
    きちんと手に渡るように配るのが「配付」、適当にばらまけばいいのが「配布」。
    だから、授業で生徒にプリントを配るのは「配付」、駅前でティッシュを配るのは「配布」。
    (博史さんの説と同じですね)

    2 「居眠り」と「うたた寝」
    「居眠り」には「居る(座る)」が、「うたた寝」には「寝る」が入っている。
    だから、座ったまま眠るのが「居眠り」、横になって眠るのが「うたた寝」。
    会議中に「居眠り」はできても「うたた寝」はできない。

    • 三上 博史 on 2023年4月4日 at 8:44 AM :

       久美子さん、ありがとうございます。
       「うたたね」は漢字で書くと「転寝」。「転がる」的な光景を連想しますよね。
       子供の頃、「居眠り運転」でトラックなどが事故を起こしたニュースや新聞記事を目にして、大人は眠りながら運転することができるんだ、器用だな、と素朴に思ったことがあります(笑)。
       

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