40代半ばの頃、個性的な部下と一緒に仕事をしたことがある。当時の私は係長だったのだが、係員の一人であるその部下はいつも真面目に仕事と向き合いながらも、言動に少し癖があるところがあった。ああ言えばこういう態度を偶に見せる。うーん、これに対して私も少しムッとすることがあったが、建設的な意見もしばしば提示してくれる。なんか憎めないところもあり、暇な時間によく雑談したものだった。
さて一緒に何かの業務を遂行する際に、一応私も係長なので具体的な指示を出して当人に任せることが多い。そして、それが円滑に進められるようにフォローするのも私の役目になる。
大体はデスクワークの書類作成が多い。その部下がパソコンで書いたものを私が確認して、上司やさらに組織の上層部に提出する。そんな感じの仕事を日々やっていた。大きな会議が近づいてくると、配付する資料の量がかなりのものになる。文書として一生懸命に入力してもらったものについて、私は必ず一通り目を通す。このコンビネーションは結構うまく出来ていた(と思う)。その時の所属長は、書類の細かいことにはあまり頓着しないタイプだった。そんなことより中身が勝負だみたいな考え方で、文章中の誤字脱字、しっくりしない言葉づかいに対して厳しくチェックすることはほとんどしなかった。しかしさらに上の幹部へ見せる際には、表記に誤りがなく体裁が整っていて見やすくしていないと、さすがに読む方の印象を悪くさせることがある。そこら辺のことを踏まえて尤もらしい資料にすることも私の役目だった。
内部で固まった企画書などの書類がとりあえずでもまとまれば、打ち合せなどの資料として必要部数をコピーしたりホチキス留めしたりと、何人かで流れ作業みたいなことに取りかかる。当時はこういった仕事を何度も繰り返していた。そして作業中のある時、その部下から「三上さんは隙間家具みたいですね」と不意に言われたのである。まさに癖のあるものの言い方である。私には何のことか全く理解できない。なんで俺が隙間家具なの?
流れ作業の具体的なやり方を説明すると、まず事務室内にそれなりのスペースを確保して作業用テーブルを用意することから始まる。コピーしてホチキス留めするには(当時の複写機はホチキス留め機能のない機種だった)、コピー用紙とホチキスやステープル(針)を用意し、場合によっては封筒も必要となる。「会議資料」などと封筒にゴム印しなければならない場合は、そのスタンプとスタンプ台もさらに必要だ。スタンプ台用の補充インクも確保しておいた方がよいこともある。まっ、みんなで流れ作業に携わる場合の下ごしらえみたいなものである。
それらのことを実は私がいつもやっていたのである。部下はギリギリまで指示される書類の修正のことで頭がいっぱいになっている。とても下ごしらえにまで気は回らない。ようやく書類が完成されて、いざ資料としての必要部数を用意することになった場合、ホチキスの数が足りない、スタンプ台のインクが少なくなって印字が薄くなってきた、などのトラブルが起きて慌てることがよくある。そんなつまらぬことで時間を取られるとやる気を削がれる。
事務員を長くやっている私の性格として、そういった事態にかなりのストレスを感じてしまうタイプなのである。いざ取りかかろうとしたら、些末なことで最初につまずいてしまうのが物凄く嫌に感じる。万全のお膳立てで一番スムーズな流れをイメージして共同作業を進めていきたい。いつもそんなことを思いながら、先へ先へと仕事を進捗させる。これは私の性分である。その私のやり方を評して、部下に隙間家具と褒められた(?)次第なのである。そう言われたからといってあまり嬉しくもない。しかし「隙間家具」とはおもしろい喩えである。ちなみに部下がイメージしたものは「階段箪笥」だった。階段を昇ろうとしたら、何と箪笥も兼ねていという代物である。空間をうまく活用していると感心する。私の場合は、空間でなく時間をうまく活用していたということであろうか。
その後、その部下とは人事異動で別々になったが、最後の挨拶で「三上さんとまた一緒に仕事がしたいですね」と言ってくれた。うーん、私としては自分の当たり前の行動に対して、それを評価してくれたことが嬉しかったような、そうでもなかったような少し複雑な気持ちになった。
最後に、2月10日付けの読売新聞東京本社版に「階段型収納家具 ロフト向け人気」という見出しで、ロフトや2段ベッドがある住宅に住む子育て世帯を中心に、階段型収納家具が人気であるという記事が載っていた。昔の階段箪笥とは趣きが異なる洒落たデザインの隙間家具が流行っているようである。時代の移ろいを感じた。
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