朝明第14号(栃木県文芸家協会/2026年1月1日発行)特集[密かなぜいたく]
「独り身ということ」 三上 博史
私のように60歳で定年退職して雇用延長や再就職もせず、働くことを拒否する者は少数派だろう。公的年金が受給される65歳になるまで、そのつなぎに失業保険や個人の年金で日々の生活をやり繰りしてきた。
そういう中で、川柳関係の出版のオファーが舞い込んでくる。一応は出版社の企画に乗っかった形をとるが、協力金という名目の負担が著者には求められる。
定年後から現在までの8年間に、2冊の句集、1冊の入門書、3冊の秀句鑑賞本を上梓した。これら6冊にかかる協力金の合計は乗用車1台分ぐらいに相当するだろうか。車種もいろいろあるが、ここではそのことに言及しない。版元が発行する川柳雑誌に拙著の広告が毎号載る効果もあって、今でもいくらかは売れ続けている。
ある時、遠方で所帯を持った娘にこれらの費用のことをすべて打ち明けた。ふーんという感じで特段の反応はなかった。親の老後には口を出さない。自分の家庭に何らかの影響を及ぼさなければあまり関係ない。好きにしたらいいのではないか。そんな考えなのだと私なりに受け止めた。
粗っぽいものだったが、自分なりに老後のフィナンシャルプランは考えていた。年金の不足分を補うような形でのアルバイトだけはやりたくないという意思を持っていた。他方で出版の企画が持ち上がってくると、どうしてもホイホイと乗ってしまう。費用をどう工面するか。貯蓄は取り崩し始めると、あれよあれよと減っていく。うーん、何とも悩ましい。
しかし、私を見守ってくれる神様がどこかにいるようだった。定年後、川柳という文芸の裾野を広げるためにいくつかの団体でボランティア的な活動を始めた。そうすると、いろいろな依頼の話が舞い込んでくる。新聞柳壇や川柳雑誌の選者などを頼まれてこれらを請け負うと、次は企業が主催するテーマ川柳の審査員を任せられた。地元での川柳講座の講師、テレビやラジオ出演もあった。入門書を書いていたのでそれなりに知名度が上がっていたようである。
数年前に、これらに関わった報酬の合計をざっくり計算してみた。なんと6冊の協力金にほぼ匹敵するではないか。神様の思し召しで、結果的に老後の貯蓄をほとんど取り崩すことなくすべて上梓できていたのだ。
そして現在、川柳人生30数年の集大成というか、今までに詠んだ作品をまとめた句集刊行の準備を進めている。上製本を想定しているのでかなり割高の協力金になるだろう。どれほどの人が読んでくれることか。うーん、自己満足を承知の上での決断である。
60歳を過ぎてこんな好き勝手なことをやっていられるのも、反対するような家族がいない独り身だからだと思っている。なお、私は衣食住にはあまり関心がない。親譲りで贅沢することも好きではない。川柳だけが人生の友なのである。
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