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 MicrosoftのWordで文章を作成しながら、「○○(動詞などの用言)たり、□□(動詞などの用言)たり、……。」などの言い回しを入力する。これは問題ない文例になるが、一つの文の中で「○○たり、……。」のように「たり」を一度しか使わないと、アンダーラインが表示される。これは間違った言い回しや誤入力なのではないかという注意喚起である。
 ネットで調べると助詞の「たり」は並列助詞と呼ばれ、一つの文の中で用いる場合は、基本的に2回以上並べるものであると解説されている。1回のみの使用で許されるのは「昨日は映画を観たりした。」などのように、映画以外の例えば食事やショッピングなどの他の行動も暗示しているような場合で、そういったくだけた話し言葉の言い回しには、文中には表われていない並列感があるからOKであるということらしい。
 しかし、例えば職場で「今度の金曜あたり、仕事が終わったらどこかへ飲みに行かない?」などの会話に出てくる『金曜あたり』は他の曜日をあまり暗示していないのではないか。受け手には並列感が感じられないだろう。週末の金曜だからこそ飲みに行こうという誘いである。おそらく前後の曜日、週末ではない木曜日や休日になる土曜日にわざわざ飲みに行こうと誘うことは考えにくい。金曜はやはり動かせないだろう。しかし何故か「金曜あたり」と、遠回しになるぼかした言い方をする。「カラオケなんかに行って発散しない?」などと話しかけることも、「…なんか」と言いながらカラオケ以外のことは想定されていない場合がほとんどである。こういうぼかし表現は日本語が得意とするところである。何事も曖昧に扱うことが好きな言語的国民性というか精神風土というか、まっ、これ以上は深く申すまい。
 話しを戻すと、「たり」には並列助詞の意味だけでなく、遠回しに物事を持ち出そうとするも役目も担っていると言えるだろう。婉曲助詞あるいは曖昧助詞というか、そんなカテゴリーを設けてもいいような気がする。
 Wordで入力しながら出てくる注意喚起やエラーメッセージは、単語や文法上の誤用や誤変換などについて機械的に処理して判断される。助詞の「の」の用法も一つの文で3回連続すると、Wordではこれもアンダーライン表示が出てくる。佐佐木信綱の有名な短歌「ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なるひとひらの雲」には、「の」が5回連続して使われている。これも入力したらエラーメッセージが出て来るのだろうか。著名な歌人の名作なので、Wordの機能もさすがにこの場合の表示は遠慮するのか(笑)。「の」の3回以上の繰り返しは、確かに稚拙な作文に見えてくるが、韻文になると意図的なものとしてかえって味わい深くなるというものであろう。
 先日、Web句会「夏雲川柳テラス」(互選形式)に投句された作品の中に「八月の祈りの空の星の数/石川和巳」というのがあった。「の」が4回繰り返されている諄さ(?)が逆に面白いと気に入ったので私は点を入れた。
 書き言葉における規範やルールはそのまま話し言葉に適用されないことが多々ある。書き言葉の規則性が、話し言葉になるとそれらがルーズに運用される。生身の人間が会話する場合には、コミュニケーションがきちんと成立していれば(それなりにきちんと通じていれば)、意味的なこと、語源的なこと、さらに文法的なことなどは二義的なものになってしまう。新語・流行語、若者言葉もそういった類であろうか。そして言葉もその使い方も、歴史的に見れば流動的に変化し、コミュニケ―ションと言語表現の世界でバランスを保っている。それぞれの国のそれぞれの言語の体系が、時代の変遷の中で破綻することは有り得ない。
 話し言葉はそもそも場の雰囲気に左右されることが多い。お互いにきちんと理解できればそれで事足りる。以心伝心ということもある。話しが通じれば、文法などの決まりごとは屁の河童である。深く愛し合う恋人同士の会話には言葉すら野暮になることもあるだろう。
 AIアナウンサーによって読まれるニュース記事にもの足りなさや味気なさを感じるのは、規則や規範に基づいてあまりにも正しく音読されるからである。耳から入る話し言葉の世界は、文法的にはおかしい助詞の使い方やズレた語法、あるいは方言がいくらか混じっていた方が案外落ち着いて聞いていられる時もある。淀みなく原稿を読まれるより、いくらか癖のある話しぶりの方が印象に残るというものである。偶には言葉に詰まったり、微妙な間を置いたりすることに違和感は感じらず、味のあるものと受け取られる。完璧さを求めるて飽きてくると、アクセントやイントネーションの意想外の使い方に印象づけられて強く記憶に残ることもある。人間は勝手なところがあって、予期せぬこと、想定外のスリリングを時々欲しがるものである。
 以上、言葉遊びみたいなタイトルを付けた句集「ほぼほぼとほぼ」の著者として、一言述べたかった次第である。

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