2024年7月21日に「高価買取ということ 」を書いたが、その続きである。
最近、スーパーの店先で露店みたく高価買取の商売をしている光景を目にすることが多くなった。自分にはあまり関係ないと思っていたが、ある日の朝刊にその折り込みチラシが入っていた。文面を読むと、貴金属やブランド品の他に、テレホンカードやクオカード、クレジット会社の商品券などを額面どおりに引き取るという。「額面どおり」の謳い文句に驚いた。少し怪しんだ。ただしこれらの引き取りは、一定数に達したら終了との断り書きも記されていた。本社は東京にあり、仮設の店は近くのスーパーで1週間程度開くという。
何か胡散臭いなぁという思いもあったが、額面どおりがほんとうのことならと、とりあえずカード類や商品券を持って出向くことにした。実はテレカを20数枚抱えていて、ずっと持て余していたのである。金券ショップに行ってもどうせ安く買い叩かれるだけだろうと思い込んでいた。すべてが買ったものではなく、マラソン大会の参加賞などのもらい物がほとんどだったが、それでも欲があって額面が割り引かれて売却することにはいささかの躊躇いがあったのである。
いざ行ってみると、若手の社員が丁寧に応対にして、ほうとうに額面どおり引き取ってくれた。思わぬ臨時収入に喜んだ。その際に、貴金属の類いやブランドの皮革製品が家にないか、もしあったらいくらでも査定してあげますと頻りに勧めてきた。でも、とりあえずそれはないときっぱり返事した。
その後しばらくして、同じスーパーで別の会社の店が営業していて、法被を着た若い女性店員がバッグならどんなものでも3点1,000円で引き取ります、とスーパーの来店客に声掛けしてチラシを渡していた。貴金属は勿論、壊れた腕時計も引き取るという。うーん、少し考えた。家にも眠っているものはいろいろとある。この際放出してみるか。
帰ってから押し入れや戸棚、抽斗を開けてみると、結構出てきた。バッグはとりあえず3点確保した。次は腕時計。故障したものだけでなく電池切れやバンドが破損したものなど、10点近く出てきた。ネクタイピンやカフスボタンも何点か見つけた。母親が仕舞い忘れていた18金のネックレスも現れた。いろいろ考えた末に、ネックレス以外はすべて処分しようと決めた。ネックレスだけは母親の形見のものになるので、とりあえず査定だけをお願いすることにした。
翌日店に出向く。応対してくれた社員が責任者と思しき人で、買取り品を前にして丁寧に高価買取マーケットの仕組みを教えてくれた。まず、ブランドでもないバッグ類は、引き取って東南アジアの方へ持って行き無償で現地の人に放出する。利益は発生しない。腕時計も売れそうな高価なものを除いては、すべて分解して金属リサイクルに回す。ネクタイピンやカフスボタンはブランドのものでも市場ではほとんど需要がない。しかし一応はただ同然で引き取る。そして最後に18金のネックレス。18金には銅が混じっていて、経年変化で赤みが出る。実際にこのネックレスも赤くなっていると説明してくれた。商品にはあまりならない。計量すると金の含有量は6g。これを鎔かしてリサイクルすることになる。金の相場は高くなっているが、引き取る場合はこの相場の半分以下の価格となる。
うーん、高価買取の仕組みについて、その内情が少しずつ理解できてきた。テレカなどがある程度の枚数まで額面どおりで引き取ってくれる絡繰りも判った。額面どおりに買い取るという謳い文句を呼び水にして、利益が出る貴金属類・ブランド品の買取りが本命の商売だった訳である。
結論として、18金ネックレスも含めてすべて売り払うことにした。バッグで1,000円、腕時計やネクタイピンは二束三文。18金のネックレスは2万数千円。受け取った金額は合計3万円弱だった。母親の遺品であるネックレスのことは少し気になったが、抽斗の奥に眠っていたもので、当人はすっかり忘れていたようだ。それなら売り払ってもあの世で怒っていないだろう。母親が大事にしていたのは銀のネックレスで、それは孫娘が結婚する際に大事なものとして持たせていた。そのことは憶えている。
家に帰ってから、私は行動経済学のことを思い出した。人間の経済(消費)行動を理論的に分析するもので、素人でもおもしろいと感じる分野である。今回の私の経済行動は、行動経済学の理論どおりに動いた、動かされていたと改めて気がついた。
高価買取の営業は、かつては固定電話によくかかっきた。直接、自宅の玄関にやって来ることもあった。いずれも丁寧な語り口だったが、いきなり電話してきり訪問されたりして、まず不快だった。押し売りの反対の押し買いなどと言う言葉もかつては流行っていて、こういった商売に対して拒絶感を持っている方が今でも多いのではないか。高価買取と言われてもいいイメージがなかなか持てない。
しかし世の中の状況は少しずつ変化してくる。まさに消費者の微妙な心理を突いてくる戦略がこの業界でも浸透してきたと言えるだろうか。私の場合はテレカなどの売却がきっかけになって、不要となった貴金属の処分に頭が回るようになった。店側の説明を受けて、買い取る方のマーケティングのやり方も理解し、家の中に眠っているものの処分は、自分が思い描くほどのいい価格で引き取ってくれる訳ではないことを改めて学んだ。リサイクルの世界はそれほど甘くない。今回の件で、うまく買い取られた、少し騙されたのではないかという感覚もあまりない。もちろん、ネットのフリーマーケットを使って一品ずつ丁寧に売り払うというスマートなやり方もあるのだろうが、その気力はこの歳の私にはもうない。
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