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 監視カメラは防犯カメラと呼ぶのが一般的になってきた。民家や店舗・工場・倉庫などの私有地のみならず公共施設や街頭の至る所に設置されるようになったカメラは、監視しているのではなく防犯のために虚仮威しで置かれているのだろうか。思わずそんな減らず口を叩きたくなる名称の変更だと私は感じている。
 「監視」という言葉にはきつい響きがある。誰かに監視されていて気持ちがいい人間などあまりいない。平然とそんなことをでやっていたら、口喧しい人権団体から苦情が来て騒がれかねない。世間のそんな雰囲気を考慮して「防犯」という当たり障りのない言葉に置き換えられたのではないか。防犯に役立つなるならそれは結構な話しだと思い込ませながら、実態として人間を監視するシステムを定着させようとした気がする。
 防犯のために効果があると宥められても、監視されているのだと騒がれても、管理運用の実態はもちろん何も変わっていない。カメラの解析技術が向上して、事件や事故が起きた場合の迅速な解決に役立っている状況を踏まえれば、カメラのまさに「監視」機能の威力を実感せざるを得ない。

 近くのスーパーへ買い物に行き、トイレを使用した際に「煙感知器が反応しますのでタバコはご遠慮ください」という注意書きが目に入った。感知器の反応で警報機が作動したら、それがタバコによる誤作動でも必ず騒ぎになるだろう。そんな事態になってしまうのなら、タバコを吸う行為は遠慮どころかキッパリ禁止と言い切るべきものではないのか。
 何につけ「ご遠慮ください」という丁寧な言い回しが安易に使われる時代になった。万引きはご遠慮ください、などと言いかねなくなるのではないか。ダメなものはダメというものの言い方は、何につけ「ご遠慮される」べきものなのだろうか。変に優しく丁寧な時代になったものである。

 東日本大震災が発生して東京電力福島第一原子力発電所が水素爆発した。この爆発と、よく言われる「メルトダウン(炉心溶融)」は別物だと、当初の私は勘違いしてしまっていた。それは多分私だけではないと思う。
 かつて「チャイナ・シンドローム」というアメリカ映画があって結構話題になったが、それ以来このメルトダウンの言葉は世間に広まったと思う。その後にアメリカのスリーマイル島原発事故もあって、恐ろしさとともにこの言葉はさらに広く定着するようになった。
 震災発生当時の東電の社長が、この言葉を何とか使わず別の言葉に置き換えられないかと考えていたことが後になって報道された。やはりこの言葉には相当のインパクトがあったのである。しかし事実は、そのとおりのインパクトをもたらす大変な事態となった。どう言い換えようが、発電する原子炉が間違いなくメルトしてダウンしたのである。言葉遣いのレベルを遥かに超えた状況になってしまったのである。

 この震災の当初に関東地方では停電が頻発した。東電は計画的な停電を実施して、さらに深刻な事態になることを回避しようと急いだ訳である。当初は「輪番停電」という言葉を使った。一斉に停電するのではなく、ゾーンに分けてかわりばんこに停電することを我慢してもらうというものだったが、その後すぐに「計画停電」の名称に変更となった。計画的な停電なのは確かなことだが、依然としてかわばんこにそうしていたことも実態として何ら変わっていない。
 交通機関、特に鉄道などで近年は「計画運休」が時々なされるようになった。台風や集中豪雨による影響を最小限に抑えるためのやむを得ぬ措置である。これも確かに計画的な運休には違いないが、突発ではなく運休を予告するという意味では「予告運休」の言い回しの方が相応しいのではないかと思う。空港での「欠航」の表示は、よくあるケースなので簡潔でさっぱりしたものになっている。「計画欠航」では確かに諄くなる。
 計画停電に計画運休と、何につけ頭に「計画」を付ければいいというものでもなかろう。俗っぽい言い回しを忌避する傾向が増えてきている。そのことによってもっともらしく感じるのではなく、事実や事態を曖昧にしたり、隠したりすることがないのか見極めなければならない。言葉遣いに対して素直になろうとする態度も大切なのではないか。

 最後におまけの笑い話になるが、輪番停電が続いていた頃、職場の退勤時にエレベーターに乗ったら、この停電の開始時刻にちょうどぶつかってしまって、私一人が閉じ込めらる事態に遭ってしまったことがある。
 正直に言ってその時は初めて経験する閉塞感にものすごく慌てた。すぐに非常ボタンを押して、閉じ込められたことを連絡したが、防災本部の担当者は全く慌てず「自家発電に切り替わりますから少し待ってください」と応答があった。
 そうだ、そうだった。停電になったら自家発電に切り替わるようになっていたんだっけ。そのことを急に思い出して、誰もいないところで己の狼狽ぶりに赤面していた。もちろんものの数分でエレベーターは復旧した次第である。

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