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 学校の国語の教科書に出てくる著名俳人の作品は、基本的には伝統的なスタイルのものがほとんどであろう。有季定型で切れ字を使い、文語体の旧仮名遣いの表現になっている。
 テレビの俳句番組では、伝統俳句を詠む指導者がタレントなどの初心者に対して、これらの基本をしっかり身に付けるよう繰り返し教えている。そしてその次の段階として、一句の中に入る品詞の数のバランス、動詞・形容詞などの用言の活用、てにをはの使い方、送り仮名についての俳句独特の表記法を学ばせている。
 そういう指導内容を聴いていて、私がいつも思うのは、大学受験のために国語(現代文や古典)を熱心に勉強せざるを得ない高三の頃が、俳句を詠むうえで一番適していた時期だったのではないか、ということである。
 指導者から、文語体の動詞や形容詞の活用形についての基本的な誤りを指摘されている作品を眺めていると、受験生ならこんな初歩的な間違いはしないだろうとつい思ってしまう。私自身は、私立文系コースの受験勉強で古文や漢文の勉強を散々やらされて、お陰様で今でもこれらの知識は頭の隅にしぶとくこびりついている。古典文学についての基本的な語彙、文法、仮名遣いその他のリテラシーはいまでも身に付いていると自分なりに思っている。
 しかし、60代、70代になってから改めて俳句を学んで詠もうとしている人たちは、それらをほとんど忘れているようである。そういう方々は、古典の勉強について一から出直しとなる。考えてみると、これのズレは勿体ない。もし受験生の頃から俳句を詠んでいたなら、基礎的なリテラシーを踏まえてすんなりと伝統俳句を詠めたのではないか。しかしその頃は受験勉強の一環として俳句に接していただけなので、俳句などという創作活動に興味はほとんど示さなかった。若い時分は、老後になってよもや俳句を嗜むだろうなどとは夢にも思ってもいない。これが正直なところであろう。俳句を詠むリテラシーを持っている時期は俳句に関心がなく、俳句でも詠んでみるかという心境になった頃には既にその大事なリテラシーを忘れている訳である。何とちぐはぐなことであるか。
 川柳のリテラシーについて言えば、そういうことはない。口語体を基本にして切れ字や季語の約束事もない。品詞の使い方についても決まったことがある訳ではない。企業などが募集するテーマ川柳に対しても、思うこと、感じることがあれば素直に五七五にして詠むことができる。作句の自由度が高く応募するうえでの大きな障害はない。
 しかしそうは言っても、現代川柳にだってそれなりの決まり事がある。定型の十七音を守って中八や下六の字余りにしないとか、句またがりはいいが「し止め」はいけないとか。それらを墨守するのがいいのかどうかの議論はともかく、それなりのリテラシーが存在する。そういったことは入門書を読んだり、句会なとで先輩から教わって学んでいく。企業などが募集するテーマ川柳も、そういったリテラシーを知っていると作句のうえで役に立つ。応募した作品を審査される時に、リテラシーを踏まえた作品は有利な印象を得られるだろう。
 勿論、既成の概念や考え方を打破して新たな境地を切り拓こうとして、伝統的な作法やスタイルなどは一切顧みないという独自のやり方もあるだろう。隆盛を誇っているサラリーマン川柳には、そこらあたりの伝統と革新の立場が混在しているような気がする。私もかつてはサラ川に毎回応募していたが、思い起こせば、自分なりに身に付いていたリテラシーに基づいた作句姿勢を踏まえながら句を詠んでいたことに気がつく。
 企業が盛んに募集している口語調の俳句の審査についても、リテラシーの有無の影響は川柳と同じようにある程度あるだろうか。応募の間口を広げて俳句未経験者をうまく取り込もうとすると、リテラシーについては寛大な態度で審査に臨む場合もあるだろう。
 リテラシーに関連して俳句でも川柳でも、伝統か革新かのダブルスタンダードが存在する。伝統と革新は、良く言えば車の両輪のように思えるが、対立の構図も見えてくる。そして時には論争する場合もある。口語体で詠んだ俵万智の「サラダ記念日」が一大ブームとなった時、歌壇でもそういうことがあった。
 サラ川などは言葉遊びだけで川柳ではないとバッサリ斬りたがる古い考えの輩は今でも存在している。時代に追いついていけない絶滅危惧種と言われようが、いまだに吠え続けている。俳句の世界以上に現代川柳のリテラシーが衰退していることは否めないが、短詩型文芸に古くからある言葉遊びのおもしろさも分からず頑固に偏ったリテラシーだけを説いていると、いずれは見向きもされなくなることは間違いない。

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