Loading...Loading...

 大学の卒業間際に1か月ほど中華料理店でアルバイトしていたことがある。結構大きな店舗で仕事はウェイターだった。中華料理と言えば、ラーメンに炒飯、それに餃子・春巻・中華丼ぐらいしか知らなかったので、青椒肉絲(チンジャオロース)や回鍋肉(ホイコーロー)、乾焼蝦仁(ガンシャオシャーレン)などの料理は生まれて初めて目にするものだった。しかし、アルバイト中にそれらを食べる経験は一度もなかった。貧乏学生の身分では贅沢な食事になるので、どこのお店だろうと食べる気がしなかったのである。質より量、高い本格中華より安いラーメンをいつも選んでいた。
 その店では、来店した客に対してお冷やの代わりに烏龍茶を最初に出していた。大きな急須に茶葉を入れてお湯を入れる。茶葉は黒っぽかった記憶がある。そして、セットメニューを注文するとお新香代わりに搾菜を小皿に載せて(これはウェイターの担当)出していた。
 この二つの無料メニューが実はあまり評判がよろしくなかった。昭和50年代半ばの頃である。注文を取る際に烏龍茶を出すと、お冷やに替えてくれと言われることが度々あった。私も休憩時間に賄いを食べていたが、この烏龍茶の妙な臭みには好意的になれずほとんど飲まなかった。
 搾菜の方も食べ残すというか、ほとんど手を付けずスルーしてしまう客が結構いた。搾菜にも独特の臭みがある。アルバイト仲間と薬臭いと言い合って、これも賄いの時に食べる者はあまりいなかった。
 それから故郷の栃木に戻り就職して数年経った頃、まず烏龍茶が一般的に飲まれるような時世になった。缶入りが発売されてペットボトルもその後登場した。わざわざお金を出して飲む代物には思えていなかったので、当時の私は戸惑った。しかし、例えばコンビニでおにぎりや弁当を買って烏龍茶を飲みながら食べると、結構ご飯やおかずに合うものである。テレビでCMも頻繁に流され、世間でさらに広く飲まれるようになった。私の舌にも全く違和感のない飲み物になっていた。
 搾菜の方も、あんな不味いものと敬遠していたものを何かの機会で改めて食すると、確かに癖のある薬臭さはあるものの馴れてくるとそれが妙に美味しく感じられるようになった。ご飯のお供としてこれもよく合う。
 食べ慣れてくると、今まで敬遠していたものに対してガラッと心境が変化して大好物となる。好きな食べ物というのは最初は全く嫌いだったものが案外多いのではないか。
 ちなみに、中華料理についてはその後の職場の宴会などで青椒肉絲も回鍋肉も乾焼蝦仁もすべて食べることができた。もちろんどれも今は大好物である。

ポストする LINEで送る ブックマーク
❤️ ひざポン
ありがとう!

気軽にポチっと
どうぞ(無記名)

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Post Navigation

Copyright All rights reserved. SHINYOKAN PUBLISHING illustration by Nakaoka.K