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. 昔は40を過ぎると、そろそろ隠居ということだったらしい。家督を倅に譲り、ご隠居さんは暇をもてあましている。そこで物を知らない熊さん、竹さんなんかが知恵を借りに来るところから落語が始まる。電子辞書もインターネットもない時代、長く生きてきた横丁の隠居は何でも知っているのだ。

「こんちわー」
「おや、誰かと思ったら熊さんかい、まあお上がり」
 落語の出だしの定番である。
 
 50前後でもう隠居だから、80のボクなんか、昔なら化け物に近い存在に違いない。江戸時代なら生き字引みたいな存在だっただろうが、現代では生き字引どころか知らないことが多い。何しろ紅白歌合戦を見たって知らない歌手ばかりなのだ。それに最近は紅白にロゼが混じっているから戸惑うばかり。時事川柳を見ても、知らない言葉が出てくるので慌てて調べたりする。TPPはまだしも、IOTなんて出てくるともう分からない。インターネットで調べると、「モノのインターネット、あらゆる物体に通信技術を持たせる技術」とあって、ますます分からなくなってくる。熊さんが聞きに来たって教えてやれないのである。
 
 今やITの時代。スマホ全盛の時代に、未だにガラケーを使っている隠居としては分からないことだらけだ。何でも知っている横丁の隠居どころか、何にも知らない隠居なのである。ITに関しては、その辺の洟垂れの方がよほど色々知っている。パソコンだタブレットだと果かない抵抗をしているが、老兵は黙って去る時代なのかもしれない。熊さんも、竹さんも「横丁の隠居?ダメダメ何にも知らねーよ」と言っているに違いない。しかし隠居にもまだ意地がある。流行りの電子ブックに参入しようかと、内心では思っているのである。
 
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