Loading...Loading...

 

 はるか遠い昔のことである。

「七草の祝い事をやる」

 七草を明日に控えた正月6日の晩、父が突然言い出した。何事が始まるのかと興味津々で集まった家族を前にして、羽織袴に威儀を正した父は包丁を手にして身構えた。父の前にはホウレン草を並べた俎板が置かれている。

 わが家では、正月に七日にはホウレンソ草を入れて炊いたおかゆに餅を入れて食べるしきたりがあった。ホウレン草は七草の代わりである。

「唐土の鳥が、日本の土地に渡らぬ先に、七草ナズナ、七草なずな・・・・・」

 父はおかしな節をつけて歌とも囃子ともつかぬものを唱えながら、手にした包丁でトントンと俎板のホウレン草をたたき出した。

 最初はあっけにとられてそれを見つめていた子供たちは、真面目くさった父を前に笑いをこらえるのに必死だった。そのうち、だれともなくククッと笑いだし、いったん笑うともう止まらなくなって皆くすくす笑い出した。つられて母も笑いだし、しまいには父も包丁を投げ出して笑いだし、家中大笑いになった。かくして笑いの中に厳かな行事はお開きとなった。

 父はわが家に伝わる正月の風習を子供たちに伝えようとしたのだろうが、この行事はこの時限りで終わりとなった。古来の風習がだんだん姿を消し、正月にしても、年々「らしさ」が薄れていく中で思い出されることであった。

ポストする LINEで送る ブックマーク
❤️ ひざポン
ありがとう!

「なるほど!」「いいね!」
心が動いたらポチっ(無記名)

 わが家の応接間兼ダイニングキッチンは三方を窓で囲まれている。西、南、東に窓があるのだ。そのお陰で、天気のいい日は一日中日が照っている。ちょっとしたサンルームである。そのせいか、植木がよく育つ。植物に... 「花が咲かない枯木」の続きを読む
 明けましておめでとうございます    今年もよろしくお願いします         やや薄曇りだが、先ずは穏やかなお正月を迎えた。今年は代替わりの年だ。つまり十年間を過ごした七十代に別れを告げ、八十代... 「新年おめでとうございます」の続きを読む
 バタバタと今年も終えようとしています。今日は日中ちょっと気温も緩んでいたのですが、夕方からぐっと寒くなりました。予報では最低気温がマイナス3度になっていますから、それほどでもないのかもしれません。室... 「来年もよろしくお願いします」の続きを読む
 亡母が晩年「頭が馬鹿になった」とよく口にしていた。記憶力の衰えを言っていたのか、理解力の衰えを言っていたのか分からない。多分その両方を言っていたのだろうと思う。その「頭がバカになった」状態になってき... 「もしや認知症?」の続きを読む
 昨日は札幌川柳社本社句会の最後の句会、そして忘年会。この二三日札幌の道路は一旦解けかかった雪が凍りついて、凸凹のスケートリンク状態で危険この上ない。昨日だけで救急車で運ばれた人が130人ぐらいあった... 「ツルツル道路の忘年会」の続きを読む
 脳内出血で倒れて、意識のないまま、つまり植物状態で約10年ぐらいも寝たきりだった親戚の人が亡くなった。10年間植物状態だったということは、実質的には倒れた時点で亡くなったのと同じだと思う。つまり人間... 「ピンコロリは望ましいのか?」の続きを読む
Copyright All rights reserved. SHINYOKAN PUBLISHING illustration by Nakaoka.K