切る
課題「切る」入選作品
選考/二宮茂男 2009年10月募集分
もう切るね何回言うのお母さん 近藤健心
母と娘の電話を会話体の句にした。郷里で一人暮らしの母親と東京で暮らす娘さんか。お互いに思い合いながらなかなか会えない。日増しに進む老いに淋しさがからみつく。虎屋の羊羹を食べたときのような味わいがある。
枝打ちの手が百年の先を読む 竹中正幸
政治の舞台が大きく変わる。政権交代で表舞台の国会の質疑が面白い。50年荒れ放題の枝打ち作業は大変だ。が、政治の停滞は許されない。必然的に緊張感が生まれる。比喩「枝打ち」がとても新鮮。
人類へ垂れてる蜘蛛の糸プツリ 橋立英樹
人間のエゴで自然破壊が進む。この頃の異常気象は神々の堪忍袋の緒が切れたのかも知れない。高潮、集中豪雨、洪水、津波、冷害、竜巻のほか地震、火山爆発。生きもののいのちに深く感応する。
レンタルのロボット首を切りに来る 小西章雄
縁を切るふたりに切れぬ子が見えぬ 山口昭悦
袈裟切りにされた挫折の酔いつぶれ 濱山哲也
伸びる子も皆切り株にしてそろえ 小春日和
断ち切れぬ縁に絡まる泣き笑い 柄 宏一郎
震えてる身を切り刻む温暖化 鹿野太郎
髪切って風の視線を意識する みすず
タマネギを切ると女が顔を出す 松本清展
電源を切って人間取り戻す 山月堂
泣いていた昨日のボクと縁を切る 美高けい
真っ直ぐな若さ諭して電話切る 石井沙江
読みきった心の奥に残る悔い 牧  新山
途中から目覚めた凧は糸を切る 楠部千鶴
リストラに頼る安易な打開策 岩堀洋子
捨てられる前に別れる自尊心 高橋太一郎
切り捨てる強い言葉にある涙 彦  翁
力量も技術も斬られ役が上 加藤ゆみ子
臍の緒を切って嬰児荒波に 柳谷益弘
荷造りの紐を切る妻ほどく母 かんなくず
腐れ縁かも巻き込んだ爪を切る 平松由美江
自腹切る遊びが芸に艶を増し 澤磨育
暖房を切って冬物処分市 伊塚紅白
覚醒剤断ち切る親を待つ子あり 本間千代子
箸が好き切る刺す食べるフルコース 熊坂よし江
四コマ目堰を切ったか霊柩車 松村 しげる
団欒はテレビをOFFで弾む夜 みんせい
切りたいが切れないダムが幾つある 杉山太郎
子の巣立ちよくぞ切れずにきた鎖 見  乗
赤い糸金の切れ目で宙ぶらり 三浦無聊
電灯も小まめに切ってエコライフ 北  朗
揉めさせぬよう預貯金は使い切る みのり
渓流にバッサリ切ったダムの骸 望月 弘
切捨てが納得できぬ四捨五入 奴だこ
不退転の決意ばっさり髪を切る 笹倉良一
髪切ったことも気づかぬ夫と居る 足立ミツエ
白を切るその図太さに呆れ果て 徳島一郎
縁を切る名残残高ゼロにして 佐藤 信則
切られても顔出す飴の金太郎 おまつりマンボ
完敗へばっさり髪を切った意地 沢田正司
縁切りの寺で再会した二人 四国 三郎
千切れ雲そんな別れもあったなあ 備瀬ちゃくし
切って貼って結んだ絆フルムーン 和田洋子
臍の緒が切れたときから親離れ 八十日目
しがらみを切って一番安い寄付 竹岡俊彦
手刀を切っているのは異国人 太秦三猿
減点主義豊かな個性切り捨てる 昌   紀
乱切りの言葉飛ばした倦怠期 オカダ  キキ
アンカーで先頭を切る晴れ舞台 一木半介
何度でも指切りできた遠い日々 海  風
無駄を切る会議が躍る新政府 文一郎