はるか遠い昔のことである。
「七草の祝い事をやる」
七草を明日に控えた正月6日の晩、父が突然言い出した。何事が始まるのかと興味津々で集まった家族を前にして、羽織袴に威儀を正した父は包丁を手にして身構えた。父の前にはホウレン草を並べた俎板が置かれている。
わが家では、正月に七日にはホウレンソ草を入れて炊いたおかゆに餅を入れて食べるしきたりがあった。ホウレン草は七草の代わりである。
「唐土の鳥が、日本の土地に渡らぬ先に、七草ナズナ、七草なずな・・・・・」
父はおかしな節をつけて歌とも囃子ともつかぬものを唱えながら、手にした包丁でトントンと俎板のホウレン草をたたき出した。
最初はあっけにとられてそれを見つめていた子供たちは、真面目くさった父を前に笑いをこらえるのに必死だった。そのうち、だれともなくククッと笑いだし、いったん笑うともう止まらなくなって皆くすくす笑い出した。つられて母も笑いだし、しまいには父も包丁を投げ出して笑いだし、家中大笑いになった。かくして笑いの中に厳かな行事はお開きとなった。
父はわが家に伝わる正月の風習を子供たちに伝えようとしたのだろうが、この行事はこの時限りで終わりとなった。古来の風習がだんだん姿を消し、正月にしても、年々「らしさ」が薄れていく中で思い出されることであった。
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太秦 三猿 様
七草粥のお話面白く拝見しました。
我が家はお庭の草で間に合わせています。すずな・すずしろ・はこべ・・・。胃も喜びますね。ありがとうございました。
紀伊子さん、コメントありがとうございます。
我が家では七草粥に砂糖を入れて食べる習慣があり、それが嬉しくて七草の日を待ちわびていました。息子たちはもうお雑煮も食べないようです。