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こんな心遣い                  村 上 氷 筆   3月末日

3月のある日、ある職場の送別会があった。Xは退職者各氏への送別の言葉とそれに対する謝辞を聞きながら、テーブルを囲んで宴席での食事をした。贈る言葉も長年の交流を振り返っての真情溢るるものであり、ある人は涙を流しながら送辞を述べた。それらに対する去る人の言葉は通り一遍のそれではなく万感胸に迫るものがある。毎年のことではあるが職場で働くことの意義というか、深く考えさせられるものがある。

ある同僚M氏は、フクシマ復興のためにこれまで何度も出かけていたが、30代である彼が現在の職を辞して福島に居を移し、NPO法人の世話人として、フクシマの復興に尽くすという決意を述べた。その仲間も既に大勢集まって活動しているということである。同じ職場には幾人か、休みなどを利用して福島へ出かけて行き活動している人もいる。

その宴席の終わり間近に、Xは少し気分が悪くなってロビーのソファーに腰を下ろしていた。やがて宴席もお開きとなり、皆がいろんな思いを抱いて会場から出て帰路についた。Xの車は職場に停めてあったので、ポートライナーで最寄り駅へと向かった。

そちらの方向に行く若い同僚N氏と一緒に目的の駅まで向かった。彼は家のある方向が同じというので駅から共に歩いた。結局、職場の駐車場のXの車の傍を通って彼は家の方向へ帰って行った。

翌日、Xは職場である女性から、「昨夜は無事に帰られましたか」と聞かれたのでエッと思ったが、その訳はこうであった。

昨晩N氏から「X氏はちゃんと帰られた」という報告があったということだった。N氏はXと別れてから、何と二駅ほど離れた所で催されていた二次会へ出席すべく戻って行ったのであった。そんなことはおくびにも出さず、また恩着せがましくもなく、静かにXの具合を気遣いながら、さりげなく送ってくれていたのであった。

ここでいうXは私自身であり、N氏とは、中国・チベット旅行も一緒に行ったこともあり、共に飲んだり、話をしたりする間柄である。彼は好もしい青年だとはかねてより思っていたし、同僚間の受けもよい。12月初旬に胃癌の大きな手術をした私の身を案じ、このような心遣いをしてもらったことは実にありがたいことであった。娘に話したら涙ぐんでいた。私も話しながらじーんとくるものがあった。

4月からは週2回ほど講師として授業に出ることになっているが、こんな職場・同僚に恵まれていることに感謝したい。

 

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