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 パソコンやスマホの予測変換は簡単便利なものである。入力する主体(自分のこと)よりツール(パソコンなど)の方が遥かにお利口だと勘違いしそうになる。
 途轍もない量のビッグデータをもとにしてAI機能が発揮する文章作成は、展開される文に関して、一番適切で妥当と判断されたものを探し出して引用する。これは予測変換と似通っている。そして、これらを繋ぎ合わせて新たに文章が生成されたことになる。つまり文を組み立て文章を作成する過程において、今までにない独創的な表現や独自の論理をAIが思いつくことは不可能である。既存のものしか引用して使われていないのに、いかにも新たに創られたかのような誤解を与えかねない生成である。厳密に言えば「生成」なのではないだろう。錯覚と誤魔化しを得意とする手品(マジック)と似ているところがある。
 さて詩情とは何か。それは予測不可能な表現によって醸成されるものなのではないか。だから読者は未知の表現空間に入り込んで驚き、心を揺さぶられる訳である。
 拙著「添削から学ぶ 川柳上達法」(新葉館出版)の中に、作句のうえでいかに固定観念を打ち破ることが大切であるかを説いた文章がある(「固定観念をあえて打ち破る」62ページ)。自己の感受性をもとにして、一般的にもっともなことであると了解されている理屈や論理のレールから敢えて脱線する。大袈裟に言えば、既成の概念・価値観をひっくり返すことでもある。そしてさらに自分の凝り固まった殻をうまく脱ぎ捨てられれば新しい視界が広がってくる。これを川柳の詠み方に応用したら、言葉と言葉がスパークし、思わぬものが見つかるだろう。

  本を読む/パンを食べる  →  パンを読む/本を食べる
  稲が育つ/夏が終わる   →  夏が育つ/稲が終わる
  バラが綺麗/太陽が眩しい →  太陽が綺麗/バラが眩しい
  心は見えない/瞳は黒い  →  瞳は見えない/心は黒い

 上記の例文は拙著からの引用であるが、左右の短文を読み比べてどう感じるか。まず左の文は凡庸な(予測可能な、予測変換的な)言い回しであることにすぐ気がつく。詩情などはない。しかし、主述の一方を入れ換えただけで「おやっ?」と思う(予測不可能な、予測変換的でない)ものに様変わりする。
 例文について一つだけコメントをすると、「パンを食べる」を「本を食べる」に変えたら、私には、その本は赤尾の豆単を想起させた。まっ、「豆単」などを持ち出してくることは相当古い世代の感覚であるが、ご容赦願いたい。
 拙著ではこのようなことを縷々記述していきながら、自分なりに考えるところの詩情論を展開させたつもりである。
 予測変換の話題に関係させて改めて繰り返したいのは、AIには出来ない予測不可能な変換を自分の頭の中で独自に試みていけば、川柳を詠むうえでも斬新な表現の地平を切り拓けるのではないかということである。
 最後にいささか宣伝めく(完全な宣伝か?)が、拙著にはこれ以外にも詩情を生み出すための方法論が記されている。よろしかったら、読んでやってください。



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予測変換的世界と詩情について”にコメントをどうぞ

  1. 橋倉久美子 on 2024年4月28日 at 9:05 AM :

    昨日、本拠地鈴鹿川柳会の例会でした。
    隣県から1時間以上かけて通ってくださっているお仲間(しばらく前に川柳杯で大賞を取ったたこともある実力者)が、
    『川柳の神様』を「いい!」とべた褒めしていらっしゃいました。
    内容がいいし、読むと元気になるし句が作れそうな気持になる、
    本のサイズが小さいので持ち運びも便利で、いつも持ち歩いている、などなど、
    褒め言葉の連発でした。

    「機会があれば博史さんにお伝えしておく」と言うと、ぜひ伝えてほしいとのことで、
    ここを開けたら、ちょうど本の宣伝(?)をされていたので、こちらに書かせてもらいました。

    • 三上 博史 on 2024年4月28日 at 8:08 PM :

       久美子さん、ありがとうございます。
       ご丁寧に対応してくださって、たいへん嬉しく思います。
       またお会いすることがあったら、よろしくお伝えください。

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