昭和30年代の頃まで、家の中でいろいろなアンペア(電流)の高い電化製品を一度に使うとヒューズが飛んで(溶けて切れて)よく停電したものだった。そしてそれが夜に起きるとどの部屋も真っ暗。懐中電灯を片手にヒューズを交換することとなる。実に厄介だった。今は電力会社と契約するワット数を超えそうになるとブレーカーが事前に下りるので、交換作業という面倒くさい事態にはならない。「ヒューズ」は英語で「fuse」(フューズ)という。日本人にはこの発音は難しい。
実は、私がヒューズをフューズだと知ったのはだいぶ大人になってからのことだった。ハワード・ヒューズという有名人(アメリカの億万長者)もいたので、それと同じような発音・スペルだとてっきり思い込んでいたのである。
そもそも、ファ・フィ・フ(「hu」ではなく「f」)・フェ・フォの発音が苦手な日本人は今でも多い。「巨人ファン」を「巨人フアン」と呼ぶ人は相変わらずいる。「プレハブ住宅」という言葉があるが、この「プレハブ」は英語の 「prefabrication」から来ている。それを踏まえると「プレファブ」の表記が適切なのだろうが、これもなかなか言いづらい。ヒューズと同じタイプの事例となるだろう。
この手の話題は探し出せばまだまだ出てくる。「スマートフォン」の略称は何故か「スマホ」。「スマフォ」なんてそもそもが言いづらい。それを見越しての「スマホ」なのであろう。「アラフォー」も「アラフィフ」も、発音は「アラホー」「アラヒフ」なんて平気で言っている人がほとんどなのではないか。少なくとも「アラフィフ」は発音しにくい。
ジャズのことをフュージョンなどと言ったりするが、これを間違えてヒュージョンなどと言い間違えたら野暮ったく見られることだろう。洋楽では野暮な発音は禁物だからである。しかしヒューズはかつて日常生活には欠かせないものだったので、野暮もへったくれもない。言いやすい言い回しが自ずと巷間に定着する。だから電気のfuseはヒューズとして長く市民権を得て定着し、これは今後も変わらないことだろう。将来的にジャズのフュージョンがヒュージョンと呼ばれるようなことは有り得ない。
チュートリアルというお笑いコンビがいたが、チュートリアルはtutorialというスペルである。個別指導、家庭教師という本来の意味で使われる時、テュートリアルと書く場合がある。個別指導する人はチューターなのだが、これもテューターと書く場合がある。チューインガム (chewing gum)は、当たり前のことだがテューイングガムとは書かない。
「c」と「t」の発音の正確な違いにこだわれば、「チ」と「テ」を弁別した方がいいのだろうが、日本語的にはこの二つの発音の使い分けはほぼ無理であろう。英語が得意でこれを器用に使い分けていたら、少し気障ったらしく見えるのではないか。ticket(チケット)を敢えてティケットとはあまり言わない。そんな言い方をしたら、なに気取ってるんだ!と突っ込まれるのが精々のところである。
ロシア人哲学者にフョードロフという人がいたが、「フョー」というのはどう発音すればいいのだろう。小さな「ョ」が謎めいている。ロシア語が堪能な方なら、滑らかに発音できるのだろう。
飲み物であるバヤリースオレンジのバヤリースは、かつて「バャリース」と表記されていた。これの読み方も不明である。どう発音すればいいのか。
外来語について、なるべく母国語の発音に近づいて表記しようとするにはどうしても無理が生じる。限界がある。開き直るしかない。少なくとも「テュートリアル」や「テューター」の表記は止めた方がいい。「チュートリアル」や「チューター」と結果的には同じ発音になってしまうのだから。
この投稿を読んで「いいね」「参考になった」と思ったらクリックをお願いします。
なお、Facebook、Twitterなどのアカウントをお持ちの方はそちらをクリック頂き、また、「ひざポン」ボタンもクリックください(ひざポンは無記名ボタンですのでお気軽にクリックください)。