抽象と具象の狭間から読みとる、確かな人間臭。昭和一桁生まれの著者は江田島海軍兵学校教官の父をもち、戦時中から戦後の激動の時代を生き抜いてきた。自らの目で見た現実をありのままに忠実に川柳に表現する姿勢は多くの読者の胸に感動を呼ぶ。
「えふえい」「せみのこえ」「おおはなび」「ゆめをくう」「ねたふり」の5章に、4編の詩が若き日の著者のほとばしる思いが伝わる詩が加わり、本書を重層的に彩っている。
《輪郭が見えぬリンゴの向きを変え》
《UFOが咳をしながら飛んで来る》
《とうがらし熟れて静かな退職日》
《体温をなくして生きる影法師》
《地図になる道を残して僕の自負》
《波飛沫本音は海の底にある》
《八月を無口に過ごす生き残り》
《太陽と水と少しの塩で生き》
《ずり落ちた老眼鏡で見る政治》
《自分史の終りに未完と書いておく》